第6回 食は家庭と学校の架け橋(パート3)

参加者

  • 竹井 秀文(名古屋市立公立小学校 教諭/竹井塾塾長)
  • 藤原 涼子(仮名・公立小学校 栄養教諭)
  • 西秋 勇一(仮名・特別支援学校教諭)
  • 菅谷 朝香(仮名・特別支援学校教諭)
  • 内田 正幸(食品ジャーナリスト)

家庭との協働で実現する食育

竹井-

家庭の協力ということで思い出したことがあります。西秋先生は以前、牛乳が飲めない子どもに給食で飲ませるためには、親御さんに「本気で牛乳を飲ませたいですか」と聞かなければならないと言っていましたよね。親御さんの願いと協力があり、かつ承諾がない限りは虐待になりかねないとも。

西秋-

特別支援学校の生徒たちはこだわりが強く、牛乳をはじめとして白いものはすべて受けつけないケースもあります。ただ、その子どもの将来を考えて、ご飯や牛乳への抵抗感を減らすように努めています。その際は、親御さんにその旨をお話しして了承をいただかなければなりません。子どもが嫌がるモノを食べさせたり飲ませたりするわけですから、家庭でも同じように取り組んでもらわないと、目的を達成するのは難しいのです。
他にもオレンジ色はダメ、あるいは緑色はすべて拒否するというような強いこだわりがあると、命を繋ぐために必要な栄養素が摂れずに体調を崩したり、病気を引き起こすこともあります。このため、私が勤める学校では偏食指導とでもいうのでしょうか、子どもが「嫌だ、嫌だ」と言っても手を変え品を変えて経験させ、苦手なモノを克服できるような取り組みをしています。

内田-

白いものがダメとなると主食のご飯やパンも食べられませんよね。どう工夫しているのでしょうか。

西秋-

ご飯ならカレーの色を着けてもらったり、牛乳なら唇にまずチョコンと付けて、「ほら、大丈夫でしょう」と話しかけながら次のステップへと進み、抵抗感を少しずつ減らしていきます。

菅谷-

私が経験した子どもでも、給食で食べられるのはごはんと海苔、そしてから揚げだけというケースがありました。野菜類は一切口にしないので、食生活を改善するためには家族の協力を得なければならないので、夕方に家庭訪問をしたところ、その子どもはポテトチップスの大袋3袋を抱えてテレビを観ていたのです。これではお腹は一杯になるから夕食はもちろんのこと、「家に帰ればポテトチップスがある」とわかるっているので、給食もおざなりになりますよね。
いろいろと話をしてわかったことは、母親がその子どもの言いなりになっていて、食事も野菜嫌いをそのままにしていることでした。そこで、お母さんにこんな相談を持ちかけました。「いきなりポテトチップスを止めさせるのは難しいので、まず大袋から子袋へ。そのうえで、例えばハンバーグが食べられるのなら小さいハンバーグに野菜炒めを添えて、『野菜炒めを食べてからハンバーグ』という強い気持ちを持って、まずは野菜を食べさせてください。その時、子どものことを可哀想と思うかもしれません。でも、乱れた食生活を変えないと、大人になった時に取り返しのつかないことになります。だから、可哀想という気持ちは押し殺して下さい」とね。そのお母さんは理解を示して頑張ってくれたようで、後日「ピーマンを初めて食べました」という連絡をいただいたほどです。
学校給食は一日1回、家庭は2回です。食の改善は、家庭における駆け引きをどれほどしたかで決まることが明らかになったケースでしたね。

内田-

偏食は特別支援学校に限ったことではないように思えますが。

西秋-

竹井先生と同じ普通学校を経験しましたが、給食は以前と違って栄養をきちんと補うことが目的というより、「楽しく食べましょう」という流れになっているような印象を持ちました。だからでしょうか、苦手なモノは無理強いしないような風潮があるようにも感じました。

竹井-

その対極が、西秋先生や菅谷先生が勤める特別支援学校です。私も給食の様子を見る機会がありましたが、熱心な給食指導と、家庭との協働をいとわない食育に取り組んでいることに驚かされました。

西秋-

ただ、難しいのは親御さんが望まないケースです。特別支援学校だけではなく、普通学校の時にも、「牛乳が苦手と聞いていますが、どうしますか」と問いかけたところ、「飲ませなくても構いません」と仰るので、「わかりました」というしかありませんでしたから。

竹井-

でも、特別支援学校では親御さんにそこまでアプローチしている。しかも全校的にですから、食育のケーススタディとして学ぶべき点は多いと思います。