第100回(最終回) 船出

参加者

  • 八木眞澄(一般社団法人エルフ・代表理事)
  • 内野 祐(一般社団法人エルフ・筆頭副会長)
  • 竹井秀文(「竹井塾」塾長)
  • 内田正幸(食品ジャーナリスト)

一般社団法人エルフへの応援歌~つながることで新たな価値を!

内田-

2017年6月からスタートした「竹井塾」ですが、これまでの議論を基本に一般社団法人エルフ(education for life and food)の設立へとつながりました。この間、竹井塾長や八木会長、それに内野副会長らと同行取材させていただく機会が多く、そのなかで、日本の食が危機的な状況にあることや、食の未来は単に事象を批判するだけではなく、新たにつくりあげなければならないことに、私自身も気づく機会となりました。

八木-

栄養士として教育現場に携わってきた経験から、食が疎かにされるようになってきたのは、今の子どもたちの親世代あたりからだと感じることもありました。たとえば食育で大きなテーマになっている「孤食」問題にしても、すでに1980年代に指摘されていたことでしたので、まさか今になって、エルフを立ち上げるまでに至るとは、当初は考えてもいませんでした。

竹井-

実は「竹井塾」を始めるにあたり、学校現場から見える子どもたちの食が危機的な状況にあることや、教育現場における食育活動には限界があることなどをテーマとして、世の中の皆さんにお伝えしようと思っていました。しかしこの2年間のなかで、新たな組織を立ち上げて世の中に提言しなくてはならないと感じ、その結果、有志が集まりエルフが立ち上がったことは、大変うれしく思っています。

内田-

では、そのなかで「孤食」を問題とするのは理解できるとしても、そもそも「食の基本は何だ?」というのが「竹井塾」の問いかけでしたね。

竹井-

そうですね。子ども達をみていても、一緒に食べているときは、本当にうれしそうな表情をしています。この一緒に食べるということは、子ども達だけではなく全世代、とりわけ高齢者にとっても切実な問題なのかもしれません。ですから食の基本は、「共に食べることだ」と2年間の活動で切実に思いました。

内野-

先日、国連世界食糧計画のサポーターになった、日本人ダンサーの記事を読みました。そのなかでウガンダの栄養不足率が高い地区の子どもたちが、「どういう時がおいしい?」という問いかけに、「友達や家族と一緒に食べるのがおいしい!」と答えたというのです。これはエルフが「食の学び場」づくりのテーマに掲げている「よい食事・美しい食べ方を求める」の意味するところとまったく同じです。栄養が満ち足りている日本でも、問い直さなければならない視点だと思いましたね。

八木-

「何を食べるか」ではなく、「人間はどう食べているか」です。食は身体と心を養うものであり、食事の場は「コミュニケーション」の場でもあります。他者と食を楽しむ大切さを、共に考えていきましょうというのが、エルフの提案の一つです。

内田-

「よい食事・美しい食べ方」の他に「身土不二しんどふじを大切に」や「滋味を伝える」などをテーマに掲げた「食の学び場」づくりの事業提案として、生産者と消費者という一方通行の関係ではなく、育てる人、つくる人、食べる人をトライアングルに見立てて、そこにエルフが風を起こすことで、大事なことを見出す活動をしたい、というのは新鮮でした。

竹井-

飲食店でも家庭でも、誰かが食事をつくってくれるわけです。つくる人は、野菜などを育ててくれた人のことを想像したり、どうやったら美味しく食べてもらえるかな、といった思いを大切にすることで、気持ちが繋がります。それを家族、または仲間で話すことで、その姿もトライアングルになります。情報や価値が共有できるだけでなく、家庭や学校、地域でもぐるぐると循環すると思います。

八木-

昔は「旬」について話題になったものですが、それがいまは話題にのぼることも少なくなりました。エルフとしては「旬」や「和菓子」など、日本の食に昔から深い関わりがある事柄について伝えるきっかけづくりもまた「食の学び場」づくりに繋がると考えています。テーマに掲げる「身土不二を大切に」や「滋味を伝える」という活動を通じて、いろいろな人が繋がっていくかと思います。

内田-

ところで前回、いわゆる寄付者にも参加意識を持ってほしいという趣旨の話をされていました。また、“ふるさと納税”のような物品のリターンはありませんとも。これは重要なことですが、エルフの活動に参加している「意識」をもってもらうことを意図されてのことですか。

八木-

私たちの力量には自ずと限界があります。その理由だけではありませんが、皆様の支えがないと活動もできません。しかし食は人間にとって生きる基本ですので、そのことについて一人ひとりが考えていただき、少しでも興味をもってもらうことが「参加」だと思っています。ですから些細なことでも興味をもったら「参加」したことになりますので、その「意識」を高めていただけるように、エルフとしても頑張りたいと考えています。

内田-

食を生活の脇に置くのではなく真ん中に据える。その上でエルフが提案する活動に多くの人が参加しながら運営していく。そのことで小さなトライアングルが各地で動きだし、大きな社会運動に発展する可能性を秘めています。微力ですが、私も会員になって活動に参加します。

2017年から約2年間、ご愛読いただいた方には大変感謝いたします。これから「竹井塾」から船出をして一般社団法人エルフ(education for life and food)として新たに活動をはじめていきます。
現在、9月下旬~10月上旬の公開を目標にエルフのホームページを鋭意制作中です。ぜひ今後とも、応援ならびにご参加のほど、よろしくお願いします。

そしてエルフの諸活動の一つとして、名古屋地区で「学級経営-ひとづくり(講師:竹井)」を開催します。詳細については、この「竹井塾」でも掲載していきますので、しばらくお待ちください。一緒に食べて、そして「食」について語り合いましょう!