第8回 給食は社会の窓口(パート1)
参加者
- 竹井 秀文(名古屋市立公立小学校 教諭/竹井塾塾長)
- 藤原 涼子(仮名・公立小学校 栄養教諭)
- 西秋 勇一(仮名・特別支援学校教諭)
- 菅谷 朝香(仮名・特別支援学校教諭)
- 内田 正幸(食品ジャーナリスト)
パート1 学び合いの場としての給食
前回(「食は家庭と学校の架け橋」パート4)、お箸の持ち方を学校で学ばせるという話が出ました。それは食事マナーの一つですが、そこまで学校で教えなければいけないのでしょうか。
食事マナーも食育項目※に入っています。ただ、お箸の持ち方を教える際に、子どもたちに押しつけがましくないように、お箸の持ち方が一目でわかる「超スーパースペシャルマジックハンド」と名付けた模型を作りました。「これからお箸の持ち方を教えます」よりは、子どもの関心を呼びますからね。それを使ってこんな話をします。「みんなが外国に行ったときに、日本人と思われるとお箸が正しく使えると思っているから、『お箸の持ち方教えてく~ださい』と聞かれるかもしれない。だから、きちんと使えることが大事だし、外国の人とコミュニケーションをはかるきっかけになり、良いことがあるかもしれない」とね。そうすると、子どもたちは「きちんとお箸を持たなければ」と、前向きになるから不思議です。
そこまで工夫するのですね。
マナーも含めて給食は学び合いの場です。特別支援学校の生徒のなかには、先生の話を聞いて理解して表出することは苦手でも、食べ方がきれいで食事マナーがきっちりしている子どもが何人もいます。他の子どもたちに、「食べ方は○○ちゃんの真似をしようね」って、手本になる子どももいました。それで、その子の母親に食事マナーをどこで身に着けたかを聞くと、「小さいころに住んでいたフランスで」というわけです。さらに、「うるさくせずにきれいに食べる文化のなかで育ったから」とも仰っていました。
ある学校の給食の様子は、「おしゃべりしながら楽しんで食べる」という範疇を超えていました。ワイワイガヤガヤと大騒ぎしているし、食べこぼしてもそのまま。食器も食べ残しが汚くてマナーどころではありませんでした。そこである生徒に、「お家でもそうしているの」と尋ねると、「いや、家では違う」と言うわけです。「きれいに食べようね」と諭すと納得はしてくれましたが。
実はその学校と、特別支援学校の子どもたちとの共同学習の機会があったので、事前学習の場でこう伝えました。「特別支援学校の子どもたちが給食をどのようにして食べているか見てきてほしい」とね。なかには、「ちゃんと食べられるの?」というニュアンスの反応もありましたが、特別支援学校の子どもたちの食マナーは知っていましたから、「行儀はいいし、お箸の持ち方も上手だよ、学ぶことは沢山あるから」と言って送り出したわけです。
その結果は?
「先生の言うことは本当だった。お皿がピカピカだった」と驚いていました。小学1年生でも感じてくれたようです。給食は、マナーを学べるきっかけになるし、チャンスにもなります。
話しは逸れますが、給食以外にも食を学ぶチャンスはあるのでしょうか。
私が出会ったある先生は、家庭科だけではなく、図工の時間を使って食べることを表現させるなどを実践していました。また、私が大豆とみその話をした後、学活の時間を利用して、地域の図書館の司書さんに『ジャックと豆の木』のエプロンシアターや豆がテーマのブックトークをしてもらいました。これらの取り組みによって、次に行われた家庭科でのご飯・みそ汁の調理実習も、それまでとはずいぶん違ったものになりました。その後に私が何か食材について話をする。そして給食にはその食品材を使ったメニューが、というような食育の展開をさせてもらった経験があります。豆だけではなく野菜もあればカレーもある。そうした場は、食材や食を通して世界の文化を知るきっかけにもなります。1年間、それこそ思うように食育をさせてもらいました。
ほとんどの先生は栄養教諭に丸投げかと思っていましたが、いろいろなアプローチの仕方があることがわかりました。それがまた、文化などさまざま事柄と結びつく食が持つ奥深さなのでしょう。
※学校における食育の視点
- 食事の重要性(食事の重要性、食事の喜び、楽しさを理解する。)
- 心身の健康(心身の成長や健康の保持増進の上で望ましい栄養や食事のとり方を理解し、自ら管理していく能力を身に付ける。)
- 食品を選択する能力(正しい知識・情報に基づいて、食物の品質及び安全性等について自ら判断できる能力を身に付ける。)
- 感謝の心(食物を大事にし、食物の生産等にかかわる人々への感謝する心をもつ。)
- 社会性(食事のマナーや食事を通じた人間関係形成能力を身に付ける。)
- 食文化(各地域の産物、食文化や食にかかわる歴史等を理解し、尊重する心をもつ。)
「食に関する指導の手引-第1次改訂版-」(文部科学省平成22年3月)より