第10回 給食は社会の窓口(パート3)

参加者

  • 竹井 秀文(名古屋市立公立小学校 教諭/竹井塾塾長)
  • 藤原 涼子(仮名・公立小学校 栄養教諭)
  • 西秋 勇一(仮名・特別支援学校教諭)
  • 菅谷 朝香(仮名・特別支援学校教諭)
  • 内田 正幸(食品ジャーナリスト)

食の現実を伝えれば給食は残らない

藤原-

給食は生きた教材です。目の前にあるわけですからね。文部科学省も、給食を生きた教材として利活用するようにプッシュしていますが、学校現場では他のことに時間を費やさざるを得ないのが現状ではないでしょうか。一生懸命に食べさせている先生もいますが、先生たちが食にほとんど興味を示さない。給食は好きなだけ食べ、食べたくなければ残せばいいという姿勢かもしれませんね。

竹井-

その一方で、一人で居残りをさせてまで食べさせる先生もいます。それを子どものためと思っているのでしょうが、学級内孤食ともいうべきことで人格否定になりかねません。子どもたちは、苦手なモノでも周りの友達が「ガンバレ!」などと励ますと、一口でも食べるようになるものです。それが人との繋がりであり、いじめを防ぐことにも結び付くのです。学級内孤食ではそれを助長するだけです。

藤原-

そういう先生は恐らく、人と一緒に食べることを必要としない人で、食は「生きていくうえでの最低限のエサであればいい」と考えているのかもしれません。美味しく食べるとか、楽しく食べるという食の広がりが理解できないのでしょうね。

内田-

広がりといえば、食が内包するテーマは広いし奥深いものがあります。例えば、農産物の生産は文字通り自然との闘いで環境問題にまで発展するし、飽食の国もあれば飢餓に苦しむ国もあるように、富だけではなく食の偏在という国際関係にまで話題が及びます。他の授業への糸口にもなるように思えます。

藤原-

国連唯一の食糧支援機関の国連WFP(世界食糧計画)によると、世界が飢えないだけの穀物生産量はあるというのです。ではなぜ、飢餓に苦しむ人たちがいるかと言えば、先進国がその穀物を家畜の飼料として消費しているからです。これはどう考えても不公平ですよね。だから、子どもたちにそういう現実があることを伝えながら、給食を残して捨てることを考えてもらうようにすることもあります。

竹井-

子どもたちの反応は。

藤原-

その際にはハンガーマップも利用します。食事をまともに食べられない国は赤色、日本やアメリカなど先進国は緑色、戦禍などで食べているかどうかもわからない国は灰色、などと色分けした世界地図です。それを見ると子どもたちは「エッ、食べられない国がそんなにあるの」という反応を示します。

竹井-

そうすると、給食の残りは減りますか。

藤原-

その後はしばらく、給食は残さずに食べるようになります。ただ、そうした学びの機会は継続しなければなりません。食は自分の趣向が優先するし、我慢より楽な方へと流れるのが宿命とも言えますからね。ただ、そういう食を取り巻く現実を知る機会があれば、将来、買い物での食品の選択の仕方も変わってくるし、「こういう食べ方はいかがなものか」と自問するきっかけにもなります。だから私たちは、すぐに結果は表れないけれども食育を続けるのです。

竹井-

私はこの座談会の冒頭で、子どもを通して食の大切さを学んだこと経緯を説明しましたが、藤原さんの話から、食から学ぶことは幅広く国際関係にまで及ぶことを再確認しました。この両輪がコラボしないと本当の意味での食育にはつながらないことも、です。また、すぐに結果は表れないかもしれないけれど、子どもたちが世界の食を取り巻く現実を知ることは、その後の食への向き合い方に大きな違いが生じることも、想像に難くはありません。

内田-

栄養教諭だけではなく、他の先生たちも、食について知識を深めておくべきでしょうね。特に若い先生たちは“袋の味”で育ってきているので、食の知識をどれほど持っているかが疑問です。

西秋-

私の学校では、若い先生が単独ではなく、ベテランの先生と組んで給食指導に臨んでいるので「学ばなければ」と実感しているようです。そこは他の学校とは違うので、救われているように感じています。
食育は、藤原さんのような栄養教諭の考え方や方針も大きなウェイトを占めます。例えばリオ・オリンピックの時はブラジル料理をメニューに取り入れるなど、ベテランの先生はさまざまな食体験をさせて下さるので食への興味が深まります。配膳についても、ご飯は左で、汁物は右というように毎回、きちんと並べて食べることの大切さまで教えて下さる。それは、子どもたちの空間認知の勉強にもなるので助かっています。

※ハンガーマップ
世界の飢餓状況を、栄養不足人口の割合により国ごとに5段階で色分けして表現したものが「ハンガーマップ」です。飢餓人口の割合が最も高い濃い赤色に分類された国では、全人口の35%以上もの人びとが栄養不足状態に陥っています。発表しているのは国連WFP。