第19回 学校給食を考える

ジャーナリスト 内田正幸

学校給食と地産地消②

「日本では、地域の農家から生産物を購入し、その食材で子ども達に栄養価の高い給食を十分に食べさせているそうですね。この『地産地消』の取り組みが、食糧安全保障を達成する上で一つの基盤となることを日本はよく理解しているのだと思います」。

2010年11月、日本記者クラブで「チサンチショウ」と日本語を使いながら述べたのは誰あろう、国連世界食糧計画(WFP)の事務局長・ジョゼット・シーラン氏だ。シーラン事務局長はまた、長い歴史を誇る日本の給食制度を、「地域の生産物を使い、子どもたちに高い栄養価の給食を提供している素晴らしいモデルであり、日本における『地産地消』の取り組みは他国のお手本になる」と賞賛している。

日本では当たり前とされる学校給食だが、世界的には先進国の一部で実施されているに過ぎない。このためWFPは、学校給食がどこでも当たり前に食べられる世界を目指して「学校給食プログラム」を実施している。その理念は「給食は、すべての子どもが栄養を摂り、健康に教育を受けることを可能にする効果的な社会保障」で、目的は「セーフティーネット」「教育的効果」「栄養改善」など。ちなみに、教育的効果については次のように評価されている。

「毎日の学校給食があることで、子どもたちは空腹を感じずに勉強に集中することができます。また、就学率や出席率の上昇、退学率の減少、また、子どもたちの認知能力向上などの効果も見られています。さらに、教育に機会に関する男女格差がある地域では、学校給食に加えて持ち帰り食糧も提供することで、女児が学校に通う動機づけを強めることができます」

国連WFP 2016年3月プレスリリース

さて、話題を戻してWFPの事務局長が評価した日本の学校給食における「地産地消」。ただ、手放しで喜べない一面があるも事実。2011年に策定された第2次食育推進基本計画は、2015年までにその実施率目標を30%以上とするなど、数値が期待されるほどではないからだ。参考までに紹介すると、2012年段階での実施率は25.1%(文科省調査による)。その後、伸びているとのデータは見当たらない。

挙げられている課題は前回も紹介したが、栄養教諭は、「地場産物の価格は高い傾向にあり、限られた給食費の中で使用し続けられない」「虫など異物が多く、洗浄などに時間がかかり、時間内調理が困難」「天候に左右されやすく、確実に使用できる保証がない」「魚介類は、切り身にするなど加工されないと使用できない」などを指摘している。

また、こんな指摘も挙がっている。「農地はあっても、専業農家の減少や農業従事者の高齢化で耕作放棄地が増加している」。実は、農水省が発行している「食育白書」(平成27年度版)にも、似たような記述がみられる。

先進事例として紹介されている鹿児島県枕崎市の学校給食センターは、(現在、小学校4校、中学校4校の約1,730食を提供)、地元で栽培された野菜や果物、米をはじめ、かつお、かつお節、枕崎牛、枕崎茶、鹿籠豚など、地産地消を生かした学校給食の提供に努めており、納入業者と連携した納入体制を構築している。その成果は、枕崎市における学校給食への地元の野菜の使用割合は増加傾向を示し、給食センターが地域と連携することで、子どもたちはもちろん、学校、家庭、地域が一体となった食育につながっているという。しかし一方で、こんな課題を抱えているというのだ。「野菜を納める給食検討部会の高齢化が進み、今後も継続していくために後継者の育成が必要」

WFPのジョゼット・シーラン氏の、「『地産地消』の取り組みが、食糧安全保障を達成する上で一つの基盤となる」ことは的を得ている。とはいえ、日本ではその根幹となる人的基盤に危険信号がともっているのである。これもまた、「学びとしての食」の大きなテーマとなる。

また、地場産物を学校給食に仕向けることは地域農業の価値の見直しであり、生きた教材として位置づけられたことで行政が支援するケースも多い。しかし、支援が終わった時、「地産地消」と「食育」が一過性のものとして忘れ去られることも懸念される。