第43回 世界の食と日本【フィリピン④】
参加者
- 番場 正人(フィリピンミンダナオ島在住・ボランティアで植林活動中)
- 竹井 秀文(名古屋市立公立小学校教諭/竹井塾塾長)
- 内田 正幸(食品ジャーナリスト)
自然(環境)と不可分な食
『竹井塾』は食を通した世直し運動を目指しています。ただ、まだモヤモヤ感があります。
繰り返しになりますが、日本で視点として良かったのは食育ではないでしょうか。食育が盛んになる以前から、給食は子どもたちに準備させてきましたが、教室の掃除も子どもたちがやっています。これは諸外国ではあまり例がありません。シンガポールでは掃除は専門の人たちが仕事としてやっているし、ヨーロッパでも学校の教室を子どもたちが掃除をするという発想がありません。「専門の人がやればいい」というわけです。でも、日本では小さいころから給食や掃除を通して社会規範を学ぶことができるので、これは世界に評価されることにつながると思います。
以前、フィリピンには学校給食がないというので、関係者の女性たちが日本の給食事情を視察に来たことがありました。給食の基本的な情報がないので「日本に学びたい」となったわけです。給食や、まだ課題がある食育は世界のモデルになり得るかもしれません。
食事のマナーを含めて日本では公教育のなかで食育基本法以前から食育を実践してきたと言えるでしょう。「勉強だけを教えるのが学校ではない」という考え方があるからです。他方、諸外国では「学校は勉強を教える場所」と割り切っています。彼らからすると、学校で道徳を教えることも不可思議に映るようです。
配膳から後片付けまでする日本の学校給食を見ると、それをしない外国の人は驚くでしょうね。
日本ではそれが当たり前です。日本はガラパゴス化していると指摘されますが、その当たり前が、世界から評価される素になる可能性を秘めていると思います。
食育だけではなく、それと深く結びつく農業や水産業など、世界に向けて発信できる食情報が日本には豊富にあるように思います。
日本が一番ではないのはもちろんです。外国から学ぶべき点は学ばなければなりません。
そのことで思い起こすのは、フィリピンで食事の後片付けを手伝った時のことです。「脂ものに使った食器と他の食器は一緒に洗わないで」を言われました。かつての日本でもそうしていましたが、いまや合成洗剤のお蔭で一緒に洗え、CMは脂汚れ対策に特化したものばかりです。便利にはなったのでしょうが、分けて洗うという生活文化も伝えていくことも必要かもしれません。
「便利」という価値観が世界的に蔓延っていますが、それが地球にどういう影響をもたらしてきたのか。それを考えると近い将来、環境に負荷をかけない生活とはなんなのかという価値観に変わっていくでしょう。
地球は有限です。大航海時代から第二次世界大戦までは、地球は何でも受け入れてくれると人々は思っていました。ところが科学が発展し、人口増やエネルギー、そして土地利用を含めて自然に対する収奪が加速し、人間社会は地球に負荷をかけてしまったわけです。エネルギーが象徴的です。とすると、価値観を変えざるを得ません。その新しい価値観のシェアをいかに高め世界常識にしていくのか。日本がその働きかけをしていくことが求められていると思います。
人口増や土地利用、エネルギーをはじめ、環境問題は食と密接に結びついています。食後も含めて、“環境に負荷をかけない食の在り様とは何か”は「竹井塾」の大きなテーマになります。人は自然のなかで生かされている存在ですからね。
そこから離れては生きてはいけません。
番場さんのご紹介
カトリック女子修道会のCBsistersと一緒に、フィリピンの少数民族であるバジャウ族やマノボ族といった経済的に恵まれない人々の自立活動をサポートしています。
ブログ「フィリピン ダバオ郊外 トリルの海辺で」にて、現地情報を公開中です。フィリピンミンダナオサントル会を通じて、CBsistersに寄付することができます。