第44回 世界の食と日本【世界】

参加者

  • 番場 正人(フィリピンミンダナオ島在住・ボランティアで植林活動中)
  • 竹井 秀文(名古屋市立公立小学校教諭/竹井塾塾長)
  • 内田 正幸(食品ジャーナリスト)

食のキーワードは「グローカル」

竹井-

グローバリズムが進む食の世界ですが、番場さんが世界の食糧事情の中で注目している動きはありますか。

番場-

過去の文化を見つめ直そうとでも言うのでしょうか、最終的にタンパク質が豊富な昆虫食に向かうのではないかと言われていることです。というのは、たとえば肉牛を育てるためには体重の何倍もの飼料が必要ですが、世界の人口が100億人を超え、肉牛を飼育し続けると人間の食を賄えなくなるという危機感があるからです。実際に国連食糧農業機関では2030年に食料用穀物需要を飼料用需要が上回ると予想しています。

内田-

日本へ輸入されている飼料用のトウモロコシや大豆栽培の実態を取材するために、何度か米国の中西部を訪れた経験があります。地平線が見えない広大な土地で、飼料用のトウモロコシと大豆が栽培されている様子には驚きました。バスで数時間移動しても同じ風景が続くのです。これらの作物が牛をはじめとする家畜用ではなく、人間の食糧に向けられれば、より多くの人々を扶養できるはずだし、実際に、食料問題の専門家はそう指摘しています。

番場-

実際、米国やブラジルなどで栽培されているトウモロコシや大豆のかなりの部分は人間が直接食べているわけではありません。ですから、人口が100億人を超えれば当然、「牛を育てるのは無駄」ということになります。
穀物生産で思い出しましたが、日本を始め東南アジアなどの降雨量の多いところではピンとこないのですが、世界の多くの地域で降雨量が不充分の為、穀物生産用に地下水を利用しています。この地下水の使いすぎで、地下水位が下がってきていることも問題となっているようです。また、この地下水に塩類が含まれていることがあり、土壌に塩類が蓄積し農業不適地となる場合もあるようです。
そのような理由から、より環境負荷の少ない昆虫食という考えが出てきたようです。将来、穀類を食べた家畜が禁忌となる宗教が出てくるかもしれませんね。

内田-

ところで、牛で思い起こすのは捕鯨禁止です。というのも、捕鯨禁止を訴えたのは、いまや日本への牛肉輸出大国の米国だったからです。捕鯨禁止の理由はいくつも掲げられていますが、米国はかつて捕鯨をしていたし、ロウソクの油に利用するだけで残りは捨ててしまっていたとも言われています。それに比べて日本の鯨食は、余すところなく利用していたと言えませんか。文字通り「ご馳走様」の世界です。

番場-

ソウルオリンピックの頃に「犬を食べてはダメ」という話もありましたが、自分たちの価値観を押し付けるのはいかがなものかと思います。世界にはさまざまな価値観があります。日本は四方を海に囲まれているという地理的条件から、手近にある魚や鯨を食べ、それを重要なタンパク源としてきました。それが風土であり食文化となるわけです。それを考えずに禁止を訴える背景には、人種的な差別意識はないのか、精査する必要があるように思えてなりません。捕鯨禁止についても科学的なエビデンスに基づいた議論が通らなくなってしまっていることに危惧を感じます。手近なものを食べてきたのが食です。それについて科学的な根拠なしに文句を言われる筋合いは無いと思います。

竹井-

牛肉食に象徴されるようにグローバリズムは食の画一化を生むだけではなく、そこに持続性があるとは思えません。とすると食は手近、つまりローカル、地産地消に根差すことが本来の姿だし、それが食文化を育んできたということになりますね。

番場-

食を自給できることは安全保障上大切なことです。グローバル化のなかで日本は安価な食料輸入に依存してきましたが、その仕組みを変えないと食料の安全保障はかないません。世界の人口増加に伴い穀物の輸入が困難になってくる可能性があります。食料自給率は一朝一夕では増加しません。政府として総合的な取り組みを早急に始める必要があると思います。食の基本は地産地消であり、他所からもってきて食べるのは贅沢と肝に銘ずべきです。

内田-

『竹井塾』のアプローチの方法は常に、グローバルに考えてローカルを基本とする「グローカル」になりますね。

※ 肉牛の飼料: トウモロコシや大豆かすなどを使った濃厚飼料が用いられる。1kgの牛肉生産には10kgの飼料が必要とされる。飼料だけではなく、牛肉1kgの生産には1万5000リットルの水を必要とし、これはお米1kgの生産に必要な3000リットルの5倍にのぼる。

出典: 『食料の世界地図』(第2版)・丸善

番場さんのご紹介

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