第47回 世界の食と日本【ドイツ②】

参加者

  • マンフレッド・マイヤー(外国語講師 日本在住24年)
  • 竹井 秀文(名古屋市立公立小学校教諭/竹井塾塾長)
  • 内田 正幸(食品ジャーナリスト)
  • 飯田 冬実(果物輸入商社勤務)

消えゆく「おふくろの味」とも呼べるパン

竹井-

マイヤーさんは日本での生活が24年になりますが、日本の食事で驚いたことはありますか。

マイヤー-

外食した時、アジの刺身を頼んだのですが、頭がまだピクピクしていたのには驚きました。ドイツでも魚はMatjeshering(マティエスハーリング)というニシンの酢漬けなどを食べるし、寿司店もありますが、生きている魚の刺身にはどうしたものか?と困り果てました。今は刺身を食べます。納豆も、目玉焼きと納豆を一緒に焼き、塩で味付けしてパンに乗せて食べています。美味しいですよ。

内田-

納豆は日本の食文化のように言われますが、西日本の人たちはあまり食べないように、地域によって食文化は違います。その典型は味噌や醤油で地方色がとても豊かです。これが今、大手メーカーの味一辺倒になりつつあります。ドイツはどうでしょうか。

マイヤー-

私の故郷はドイツ北西部のRheine(ライネ)というところです。一度、日本人の友人とミュンヘンへ出かけ、レストランで食事をしたのですが、ドイツ語で書かれているメニューの半分ほどが、どういう料理なのかが分かりませんでした。その地域独特の食べ物なのかもしれませんし、同じ料理でも呼び方が違うのかもしれません。
また、ドイツはパンの種類が豊富で、地方色というか、地域には多くの独立したお店が独自のパンを作っていました。しかし、大手スーパーの出現でそうしたお店が閉店に追い込まれているのです。スーパーと競争できないし、その結果、後継者も育たない。だから店を閉めざるを得ないのです。実は、私の母の実家はそうした独立のパン店を営んでいて、母の弟が引き継ぎました。そのパンの味が我が家の味でしたが、結局は閉店に追い込まれてしまいました。そのパンの味は日本風に言えば「おふくろの味」でもあり、今でも思い起こします。しかし、もう食べることはできません。残念で寂しい限りです。

内田-

日本でもスーパーの進出でパン店、精肉店、鮮魚店などが街から姿を消しています。パン以外に、お袋の味のような食べ物はありますか。

マイヤー-

ドイツに帰ると、好きなものを食べます。色々ありますが、そのなかで食べたくなるのは、酸っぱい牛肉料理のSauerbraten(ザウアーブラーテン)です。酢、水、香辛料、調味料を混ぜた漬け汁でマリネしてから炒める料理です。ドイツの国民食の一つと言われています。各家庭で味は少しずつ違いますから、これも「おふくろの味」の一つです。ドイツの一つの伝統として、日曜日や祭日は、昼食に平日より良いものを食べるという習慣があります。その一つがSauerbratenです。

飯田-

日本のおせち料理も、家庭によって微妙に味付けが違うのと同じですね。

内田-

話は変わりますが、ドイツ人は肉をよく食べるようですが、驚いたのは豚肉を生で食べる習慣があることです。

マイヤー-

豚ひき肉を生で使うMett(メット)です。玉ねぎやピクルスと一緒にパンに乗せて食べますが、朝一番に屠畜した新鮮な豚肉でなければなりません。

竹井-

その話を聞くと、国によって食文化が違うことを強く実感します。そのマイヤーさんは、日本にしかない納豆も食べます。日本の食文化をどう見ていますか。

マイヤー-

日本の食事はバランスが取れていてバラエティーに富んでいます。

内田-

日本の食事は毎日、変化をつけることが多いかもしれません。

マイヤー-

ドイツの食事は単調と話しましたが(第46回『竹井塾』参照)、それは朝と晩は、パンとハム/ソーセージ/チーズが基本ということです。ただし、ドイツでは、パンもハムもソーセージもチーズも多くの種類があるので、この範囲はバラエティーに富んでいます。そのシンプルな朝食と夕食は、家庭ではほとんど工夫をしません。しかし、パン店や精肉店は、高品質かつ豊かで、バラエティーに富んだ食材を提供しています。そこにあるのは職人の工夫なのです。

内田-

シンプルでも食べる人も飽きないし、問題はないとなるわけですね。

マイヤー-

そうですね。だから、日本のお母さんや家庭の主婦は大変頑張っている、そう思います。