第50回 世界の食と日本【東南アジア[ラオス]】フランス統治時代の名残も
食品ジャーナリスト 内田正幸
主食はカオ・ニャオ(もち米)、そして多様な麺
東南アジアのインドシナ半島に位置するラオス(ラオス人民民主共和国)。北は中国、東はベトナム、南はカンボジア、タイ、西はミャンマーと国境を接する、東南アジアで唯一の内陸国である。
ラオスの歴史は、中国南西部にあったナンチャオ王国の支配領域が南下し、この地に定住者が現れた時代に始まる。幾多の変遷を経た19世紀半ばには、フランスがインドシナ半島に進出したため、1893年にフランスとタイで「仏泰戦争」が勃発。タイの支配下にあったラオスはフランスの保護国となり、仏領インドシナに編入された。1949年にフランス連合内のラオス王国として名目上独立し、1953年10月にフランス・ラオス条約により完全独立を果たした。
そのラオスは60以上の民族が暮らす多民族国家でもあることから、家庭の料理は民族間の違いが垣間見えることもあるが、主食は米で共通している。ラオスの米は日本と同じようにうるち米とカオ・ニャオと呼ばれるもち米がある。特徴的なのはカオ・ニャオを主食としていることだ。
ラオスの家庭にはどこにでも竹製の専用蒸し器があり、これにもち米を流し込み、強火で蒸し上げる。蒸し上がった米は竹製のおひつに移されて食卓に並ぶのが一般的だ。米と一緒に必ず食卓に並ぶものが、チェオと呼ばれるタレのようなもの。醤油に唐辛子をつけただけのシンプルなものから、炭火で焼いたトマトやナス、唐辛子、コリアンダーなどから作ったものまで、各家庭によって様々なチェオがあり、これを浸けてご飯を食べる。ちなみに、もち米とチェオの組み合わせは、日本のご飯と梅干のように“ラオスの食文化の根源”とも言われている。
カオ・ニャオの食べ方として外せないのがお粥だ。水と米で作るシンプルな日本風のお粥と違い、鶏肉や豚骨から取ったダシには味わいがあり、味がしっかりついているという。
お粥の他に主食として食べられているのは麺で、その種類は多様だ。米粉にタピオカ粉を混ぜたものや発酵米粉で作る細麺、さらに緑豆春雨、ベトナムのフォーのような米粉で作る平麺もある。ラオスには小さな麺屋が至るところにあり、スープや具はお店によって違う。つけ合わせには、生のもやしやハーブ、生野菜、ライム等がつき、卓上には砂糖や塩や魚醤やラー油が置いてあることが特徴で、これで「自分好みの味」に仕立てていく。
中国やフランスの影響
食の面で中国の影響を受けているラオスの北部では、中国の担担麺に近い肉みそ麺が名物料理となっている。肉みそに使う味噌は、中国の豆鼓(トウチ)と似た発酵大豆調味料が欠かせない調味料と言われている。
ラオスが仏領インドシナ連合に編入されたのは冒頭の通り。このためラオスには、現在もフランス統治時代の名残が食の面でも色濃く残っている。
その代表がフランスパンを使ったサンドイッチのカオチーパテーで、ラオス名物の一つに数えられている。ラオス在住経験者によれば「とにかく安くて旨いの一言」だという。具材は酢漬けの野菜やパクチー、ソーセージ等々、これにカラシやバター等をつけて食べる。街にはフランスパンの専門店が多く、ローカル市場では山積みで売られているという。この他、首都・ビエンチャンでは、クロワッサンが名物のベーカリーもあるという。