第53回 世界の食と日本【東南アジア[ベトナム③]】

参加者

  • 高島 タイン(日本語学校「朝日国際学院」事務局長代理 ベトナム出身で日本に帰化)
  • 菊池 正敏(日本語学校「朝日国際学院」講師、現役時は海外赴任と柔道家として世界各国に在住経験あり、ラオス・日本武道センターの建設にも尽力)
  • 竹井 秀文(名古屋市立公立小学校教諭/竹井塾塾長)
  • 内田 正幸(食品ジャーナリスト)

「五味-五彩-二香」を支える地場産物

菊池-

ベトナムの隣国・ラオスはフランス統治時代の影響が食についてもあります。ベトナムでは中国やフランスの影響はありますか。

高島-

中国の影響は食ではほとんどないのではないでしょうか。フランスの影響はズバリ、フランスパンです。豚肉やソーセージなどと野菜やパクチーを挟み、魚醤やチリソースで味付けしたサンドウイッチ「バインミー」が有名ですね。朝でも昼でも夜でも食べますが、家庭で食べるのではなくもっぱら外食です。屋台だけではなく、バスターミナルなどでも販売されています。

竹井-

家庭では「フォー」やお粥、そしておかずという組み合わせがほとんどなのですね。

高島-

そうです。フランス料理は家庭の食事には入り込んでいません。

竹井-

ベトナム料理を特徴づける言い伝えはありますか。

高島-

「五味-五彩-二香」を大切にして料理をつくりあげています。「五味」は塩気、酸味、甘味、辛味、コクです。「五彩」黒、赤、青(緑)、白、黄で、これに素材の香りや香ばしさの「二香」の要素が盛り込まれています。「五味」のうちたとえば塩気は塩やヌックマム、魚醤。酸味はレモンやお酢、タマリンド。甘味は砂糖にココナッツジュース、サトウキビというように、どれもベトナムで獲れる産物が多く使われます

内田-

ところでベトナムの宗教は仏教が多く、この他にキリスト教、イスラム教、ヒンドゥー教などとする解説が一般的ですが、実際はどうなのでしょうか。

高島-

べトナムを紹介する記事で仏教80%などと書かれていますが、仏教に近いという印象で、これは日本とあまり変わりません。ただ、精霊とか神などを意味するものや、自分たちの先祖や土地神などに祈りや感謝を捧げる信仰の心は皆、持っています。日本で言うところの“山の神”や“海の神”を信仰する心に似ているかもしれませんね。

内田-

宗教と食というとタブーがあります。ベトナムでは食べてはいけないものはありますか。

高島-

ほとんどありませんが、クジラは食べません。

竹井-

何か理由があるのでしょうか。

高島-

クジラを取っていないからです。特に、中部と南部の漁師はクジラだけは絶対口にしません。クジラは、漁師を守る神様と言われているからで、中部と南部の沿海地域ではクジラを祀る信仰があり、クジラ祭りが一年の最大行事として毎年行われているほどです。

竹井-

ベトナムの食を調べると、ベトナムでは、食べて楽しむという意味の「アン・チョー・ブイ」という言い方をすることを知りました。これは空腹を満たすための食事とは違い、「食べる事を通して、人と人のつながりを楽しむ」という意味がこめられているようです。「個食」や「孤食」が問題になる日本人は、ベトナムから、家族や友人と食事を共にする意味と大切さを学び取りたいですね。