第55回 世界の食と日本【ロシア①】

参加者

  • クズネツォフ・ソフィア(仮名・モスクワ大学卒業。日本在住)
  • 油屋 康(大手機械メーカー退職後にモスクワ大学留学。グローバルデベロップメント(株)代表取締役)
  • 竹井 秀文(名古屋市立公立小学校教諭/竹井塾塾長)
  • 内田 正幸(食品ジャーナリスト)

昼食がメインで「家族と一緒」

竹井-

ロシアは世界一の国土を誇り、西はヨーロッパから東は極東まで、南北も広いので食文化は地域によって様々でしょうが、日本人がロシア料理で思い浮かぶのはボルシチにピロシキです。

油屋-

ボルシチは家庭によって味が違い、日本の味噌汁のような存在です。

ソフィア-

ピロシキはロシアを代表する料理ですが、ボルシチは元々、ウクライナの料理です。ですから、私の家族は全く食べませんし、日本の「おふくろの味」のように帰国して“食べたい”と思う料理ではありませんね。

内田-

では、ソフィアさんにとっての「おふくろの味」はどのような料理になりますか。

ソフィア-

まずは母親の手作りの具だくさんのスープにピロシキ、それに、日本のポテトサラダのようなオリヴィエ・サラダですね。材料はジャガイモや鶏の胸肉、ゆで卵、キュウリ、ニンジン、グリーンピースなどです。家庭によって味が違い、母親はりんごを使うこともあります。

内田-

りんごは、日本でもポテトサラダに入れることがあります。共通性を感じます。

ソフィア-

それに、ブリヌイという、中にイクラやサワークリーム、ジャムなどを挟んで食べるパンケーキのようなものも家庭の味です。このブリヌイは、毎年、2月か3月に行われるマースレニツァ(「冬を送る祭り」)という、ロシアの伝統的なお祭りでも一番のご馳走です。

竹井-

日本の行事食のようなものですね。

内田-

日本では「おふくろの味」と言われるように、料理は女性、男性は仕事というように性別役割分業が染みついています。ロシアではいかがですか。

ソフィア-

同じですね。ただ、シャシリクという串刺しの焼き肉を作るのは男性です。毎回ではありませんが、昔からの習わしです。

油屋-

ジビエもシャシリクで食べていますね。個々は巨大サイズなのですが、肉汁に香菜などがほどよく調合されていて、旨いですよ。

竹井-

ロシアの主食は黒パンですが、一日の食事パターンと代表的なメニューを教えてください。

ソフィア-

朝は、日本で言うところのお粥のようなカーシャとカッテージチーズ、それに紅茶という組み合わせが基本ですね。メインは昼で、黒パンにスープ、サラダ、肉というパターンです。日本は夜がメインですが、ロシアでは肉や魚だけや、それに黒パンとサラダがつく程度で比較的軽めです。
カーシャは東欧の代表的な家庭料理でイネ科の穀物や豆類などを水とブイヨン、牛乳などで柔らかく煮たものです。蕎麦の実を使ったカーシャも良く食べられています。

内田-

昼がメインということは、昼休みが長いということですか。

ソフィア-

現代では、仕事をしている人は外食で済ませる人が増えていますが、ロシアでは昼食を大切にするので、昔は家に帰って食事をしていました。そもそもロシアには外食の習慣がなく、あっても値段が高いので一般の人はほとんど利用していませんでした。ファストフードが入ってきたのは25年ほど前ですからね。

内田-

日常的に外食をすることは少なく、家族で食卓を囲むことを大切にするということでしょうか。

油屋-

ロシアだけではなく、私が永住権を持っているニュージーランドでも「食事は家族と一緒」が基本です。家族との時間を大切にし、その場で様々なことを話し合います。

ソフィア-

ただ、今では外食する比率が高くなり、ファストフードで食事をする人も増えてきています。

油屋-

ロシアでも、モスクワはヨーロッパやアメリカとほとんど変わらなくなってきています。