第57回 世界の食と日本【ロシア③】
参加者
- クズネツォフ・ソフィア(仮名・モスクワ大学卒業。日本在住)
- 油屋 康(大手機械メーカー退職後にモスクワ大学留学。グローバルデベロップメント(株)代表取締役)
- 竹井 秀文(名古屋市立公立小学校教諭/竹井塾塾長)
- 内田 正幸(食品ジャーナリスト)
ロシアの食から見える日本の食文化
ロシアは寒いからでしょうか、肉の煮込み料理が多いと聞いています。
そうですね。ロシア人はまず肉を好みますし、-50℃というような日もあるので煮込み料理が多いですね。寒さと食の関係で特徴的なのは、サーラという豚の脂を塩漬けにしたものです。寒いので、脂肪を体内に蓄えるための食べ物ということなのでしょう。
脂身だけですか。
それが基本です。ウオッカを飲む前にこれを食べるとお酒に強くなると言われています。
黒パンにこのサーラを乗せ、ショットグラスでウオッカを飲んでピクルスをカリッと食べてスピーチする。これがロシアの酒席でのパターンですね。
ロシアは煮込み料理に代表されるように肉を多く食べるようです。一方で、ロシア正教会の教えで、「肉を食べてはいけない週」や「牛乳を飲んではいけない週」などが定められているようですが?
ロシア正教会の教えを守る人はそれを続けています。
ある期間、肉だけではなく魚や牛乳、卵など動物性の食品を食べることはできません。その期間に食べることができるのはキノコ類か野菜だけになります。
イスラム教の“断食の月”ラマダーンと同じ意味合いを持つのでしょうか。
キリスト教もユダヤ教もイスラム教もその根本は旧約聖書です。ラマダーンについてはそこに記されています。正教会もその影響があり、今でも食物制限を伴うことが教義上重要な位置を保ち、信者の生活の習慣となっているようですね。
話は変わりますが、日本食が海外でブームになっています。ソフィアさんは日本食では何が好みですか。
お寿司やラーメン、しゃぶしゃぶが好きですね。ロシアでもお寿司を食べることができます。もちろん外食になりますが、イタリアンレストランでもお寿司がメニューに載っています。
お寿司といっても日本の伝統的なお寿司ではなく、ほとんどがツナロールのような巻物です。お寿司が健康にいいというイメージなのでしょう。
日本食といえば、かつては富裕層向けに和牛がメニューにある日本食レストランがありましたが、いまでは一般庶民も日本食レストランに通うようになっています。
油屋さんは日本の食とロシアの食を比較してどのような印象をお持ちですか。
ロシアは多民族国家ですが、ロシア料理はどの地方に行っても、家庭で出される食事は味付けは違うものの、基本はスープにサラダ、カツレツというようにほとんど変わりません。一方の日本は、地方地方で食文化が育まれてきたような印象を持ちます。その典型が駅弁で地域性に富んでいます。おそらく、地方の特色ある駅弁が数多あるのは、世界を見渡しても日本ぐらいでしょう。
一部を除いて観光用ではなく、その多くが地元で食べられてきた素材をメインにしていることが特徴だし、家庭の食事の延長線上にあるとも言えるかもしれません。