第63回 世界の食と日本【ケニア①】

参加者

  • カサリン・カリウキ(土木工学を学ぶために東京大学に留学中)
  • 竹井 秀文(名古屋市立公立小学校教諭/竹井塾塾長)
  • 内田 正幸(食品ジャーナリスト)

地域・民族によって異なる食

竹井-

日本の主食といえばお米で、地域差はありません。ケニアの「主食はこれ!」というものは何でしょうか。

カリウキ-

ケニアは多民族国家で42の民族がいます。また、地域は大きく分けて西部、中部、海に面した東部があります。インターネットなどで“ケニアの主食はウガリ”などと紹介されていますが、実際は地域で違います。

竹井-

「ウガリ」とは?

カリウキ-

「ウガリ」は、トウモロコシなどの粉を湯で練ってつくります。水分を含ませる度合いによって、団子状から粥状のものまでさまざまなバリエーションがあります。ケニアで「ウガリ」を主食にしているのはビクトリア湖に近い西部地域です。「ウガリ」は味がほとんどないのでスープや野菜と一緒に食べます。私が生まれ育った中部地域はポテトが主食で、つぶして豆と一緒に煮込み料理のようにして食べます。東部地域はパンとお米になります。

内田-

ケニアは多民族国家ということですが、民族によって食文化も違ってくるでしょうね。代表的な例を教えてください。

カリウキ-

私はキクユ族です。ケニアで20%を占めるもっとも多い民族ですが、世界的に有名なのはマサイ族ではないでしょうか。その食文化で私が驚いたのは、牛の血と乳を混ぜたものを飲むことです。牛の首筋を矢で射て血を抜き、それと乳を混ぜて飲むのです。

内田-

飲んだことはありますか。

カリウキ-

ありません。

内田-

マサイ族はケニア南部からタンザニア北部一帯の先住民で、推定人口は20~30万人程度と言われています。牛を飼いながらの“遊牧の民”とも言われ、主食は伝統的に牛乳です。それにヨーグルトもよく摂るようです。農耕民族ではないので野菜もほとんど摂らないようですが、血と乳を混ぜて飲むのはどういう理由なのでしょうか。

カリウキ-

移動しながらの生活で、料理をつくる人がいない。簡単でしかも栄養化に富んでいるからではないでしょうか。

竹井-

血を飲むのは鉄分補強が理由のようです。

内田-

ところで、ケニア大使館のHPによると、ケニアの食事はインドからの影響を強く受けているとされています。その理由は、19世紀に鉄道建設のためにインドから多くの労働者がケニアにやってきたから、ということのようですが、インドといえば日本人がイメージするのはカレーです。カレーはポピュラーなのでしょうか。

カリウキ-

ケニアではインド系の人は1%ということもあって、ポピュラーではありません。

内田-

とすると、インドの影響を受けている代表的な食べ物は何になりますか。

カリウキ-

「チャパティ」です。小麦粉を練って薄くのばして焼いたものです。また、日本ではお米を炊いてそのまま食べることが多いですが、ケニアでは、ピラウ(ピラフ)のようにスパイスなどで味付けをして食べます。これもインドの影響かもしれませんね。

竹井-

ケニアの食文化は地域や民族などによって異なることが良くわかります。日本も単一民族と言われていますが、食文化は地域によって異なります。これまでインタビューしてきたドイツやベトナム、ロシアでも事情は同じでした。それが食というものなのでしょうね。