第83回 竹井塾から進化し、新たな組織へ①
参加者
- 竹井 秀文(名古屋市立公立小学校教諭/竹井塾塾長)
- 内田 正幸(食品ジャーナリスト)
滋味を伝える
「竹井塾」がスタートして約2年。日本の食の現状だけではなく、ドイツ、ロシア、ベトナム、ケニアをはじめ、諸外国の食への向き合い方についてもインタビューを重ねてきました。
私たちは今、この「竹井塾」を発展させ、新たな活動に取り組むため万端の努力をしているところです。目指すのは「食の学び場づくり」です。
活動のメインテーマは「滋味を伝える」「身土不二」「和食観の創出」、それに「良い食事・美しい食べ方」の4つです。これらのテーマは未来の食を考えるうえで大切なキーワードになります。
まず「滋味」です。辞書的には、「滋味に富む」と使うように、栄養豊富でおいしい食べ物となりますが、見落としていけないのは、豊かで深い精神的な味わいとの解釈があることです。ゆっくり味わうことで醸し出される味や雰囲気とでもいうのでしょうか、食が栄養摂取だけではなく、精神的な支えにもなっていることを表す言葉だと思います。
教育現場に身を置いていて感じることは、味覚が加工食品の味に侵され、化学調味料や、濃い味や辛いもの、甘いものなど刺激の強いものを「おいしい」と言ってしまう子どもが多いことです。
子どもたちに「滋味」を伝えることは容易ではありません。難しさを伴うことを覚悟していますが、これは伝えなければいけない感性だと思います
アメリカの食品企業の内幕を暴いた『フードトラップ』(マイケル・モス著)によれば、アメリカの巨大食品企業は、原材料に使用している塩、砂糖、脂肪には健康リスクがあると知りながらも、消費者にもっと買わせるために利用してきたというのです。加工食品の原材料とその配合は、科学者や技術者が“一度食べたらやめられない”という「至福のポイント」を計算して生み出したとも。日本の食品メーカーもおそらく同様なのでしょう。
子どもたちの家庭の食事で驚かされたのは、夜ごはんがカップラーメンというケースでした。理由は「一番おいしいから」って。親御さんにすれば子どもが満足するし安い。しかも料理をしなくても済むということなのでしょうが、寂しい気持ちになりました。また、子どもたちに「おいしいおやつは何?」と問いかけた時、全員がポテトチップスと答えました。とても人気があるようです。
『フードトラップ』を読んで実感したことは、加工食品は、「滋味」とはおよそ縁遠い、正反対の世界にあるということです。その筆頭がポテチやカップラーメンではないのでしょうか。
「滋味」は英訳が難しいようです。デリシャスでもないしコンフォートフードでもない。日本の食文化と不可分なこの言葉と感性を大切にしていきたいですね、大人も含めですが。
先ほど、「滋味」を子どもに伝えることは難しいと言いましたが、その可能性に出遭う機会がありました。子どもたちと取り組んだ「バケツ稲」です。白米にするのは難しかったので玄米で食べましたが、みんな「ホント、おいしい」って言っていましたからね。もちろん、自分で育てたという愛着もあるでしょう。また、みんなで一緒に食べるということも相まってのことでしょうが、これこそが「滋味」であり心の教育です。“袋の味”に慣らされている小学校低学年の子どもたちにはまだ、「滋味」を感じ取る感性は残っているし、まだ救えると思った瞬間でした。
人との関係性が湧いてくるのも「滋味」かもしれません。家庭では食卓の在り方が大切になってきませんか。
親が握ったおにぎりの「おいしさ」と、カップラーメンの“おいしさ”は言葉の意味が違うのだと思います。子どもたちはそれを感知するセンサーが備わっているものの、それを大人が磨き切っていないのが現状でしょう。私たちはそこに踏み込むべきだと思います。