第85回 竹井塾から進化し、新たな組織へ③

参加者

  • 竹井 秀文(名古屋市立公立小学校教諭/竹井塾塾長)
  • 内田 正幸(食品ジャーナリスト)

和食観の創出

内田-

和食が無形文化遺産になったこともあってか、海外で和食ブームが起きています。
海外では日本食レストランが急増し、この10年で5倍になったと言われています。その一方で、本家本元の日本は…という印象が拭えません。

竹井-

和食の特徴としては、歳時記を料理に取り込んでいることや「初物」や「走り」、「名残」などの言葉があるように食材の旬を大切していることが挙げられています。先日、和食料理店の代表にお話を伺う機会がありましたが、和食は俳句と同じように季語、つまりは季節感を大切にするという話をされていました。そういう感性って外国にあるのかなと思いましたが、それはともかくとして、かつては、家庭の食卓には季節感がありましたよね。

内田-

旬のもの、つまり季節感しかなかったとも言えますが…。

竹井-

秋刀魚は読んで字のごとくで秋が旬で、母親が「旬だからね」と秋の定番でした。春は筍です。その旬がいまや死語状態で和食も然りです。たとえば学校給食で和食が出ます。献立はごはんに旬の野菜の味噌汁、それに焼き魚や煮魚などですが、「わっ、和食じゃん」と言ってがっかりする子どもがいます。それだけ和食は縁遠いものになっているのです。家の食卓には並ばないからなのでしょうね。だからかもしれませんが、子どもたちが好む給食は、ケチャップ味やシチューなど味の濃い洋食系です。おそらく、家庭がそうなのでしょう。やむを得ないとも言えますが、だからこそ、「身近な和食観は食卓にある!」と伝えなければならないと思います。

内田-

「竹井塾」の最初の頃、栄養教諭が「箸の使い方を外国人に説明できないのは恥ずかしい」と子どもたちに指導しているという話をされていましたが、和食を寿司、刺身、天ぷらとしか説明できないのでは、これも少し恥ずかしいかもしれません。「旬の素材を生かすために少し手を加え、器にも季節感を持たせていることも和食の特徴です」程度は説明したいですよね。で、分からなければ「旬ってなんだろう?」から学べばいいのです。それは食卓の会話のきっかけにもなるし、旬の「走り」や「名残」などの意味も自然と会得することができます。

竹井-

私の住まいは、岐阜県の多治見市近郊で織部焼の故郷です。それを買う目的で多くの外国人観光客が来ていますが、食器としての焼き物には、その形や大きさ、色合いや柄などから季節感を演出し、旬の食材を引き立てるといった意味があり、これも和食を支える大切な文化だということを伝えたいですね。また、季節感で言えば、和菓子も見逃せません。和菓子は歳時記に記された季節を形で表現しているからです。和食となると狭義の食を指しますが、和食観は和菓子や器を含めた総合的な食文化を指しているのだと思います。

内田-

「時短料理」が全盛で、子どもが好むコテコテ系のメニューが食卓に並ぶ家庭が多いようです。そうした風潮の中で和食は敬遠されているようですが、「竹井塾」で取材した赤坂「百菜」の阿部さんは、「家庭料理はプロを目指す必要はありません。いまは、出汁だけではなく、ほかの食材も簡単に手に入ります。それを利用すれば、家庭の献立に日本食を取り入れることは、難しいことではないと思います」と話されていました。

竹井-

その通りです。和食観を一言で表せば、自然と向き合いながら培ってきた日本人の知恵が凝縮した文化です。さらに言えば日本人のアイデンティティーだとも。今、大人が問われているのは、「それが分かる大人に子どもたちを育てたくないですか」ということではないでしょうか。