ご当地食材の魅力とともに―5
故郷の福岡には、JA全農ふくれん(全農福岡県本部)が「博多ブランド野菜」としている食材が10種ほどあります。「博多」を冠した万能ねぎ、蕾菜、ナスなどが代表的なところです。ブランド野菜ではありませんが、伝統野菜として”日本最古の渡来種”とされる豊前市の特産品「三毛門カボチャ」もあります。
でも、それらの存在を知ったのはつい最近のこと。なんとも恥ずかしい気持ちになります。子どものころ、きっと口にしていたであろうご当地食材も、何も教えられなければその魅力や来歴を知らずに生きていくことになります。それは、あまりにも寂しいことだと思います。
たとえば博多ラーメンの具材として不可欠な「博多万能ねぎ」。福岡県の南部に位置する朝倉町の特産品で栽培が始まったのは1960年前後です。当初は単なる青ネギとして安値で地元市場に出回る程度でしたが、70年代に入ってから、高値を求めて「福岡高級ねぎ」として東京へ進出。ところが、出荷してみたら食文化の違いが明らかになりました。
それは東京では白ネギが主流だったことです。そういえば、いわゆる東京ラーメンに使うのは白ネギ。青ネギではミスマッチ感が否めません。それはともかく、そこで地元農協は「博多万能ねぎ」とブランド名を改めます。しかし朝倉町からトラックで長時間かけて運ばれたため、ヨレヨレになった状態で廃棄処分されるばかりだったといいます。
次なる手として地元農協が考えたのが空輸でした。生産農家のお爺ちゃんやお婆ちゃんたちは、「ネギを飛行機で運ぶとですか?」とあっけに取られた-そんなエピソードが残っていますが、その後の展開はご承知の通り。「博多万能ねぎ」は東京はもちろん、親筋の九条ネギを凌ぐだけではなく、食文化の違いを乗り越えて細ねぎとして全国区の存在になりました。これは『竹井塾』も見習いたいところです。
皆さんの住んでいる地域には、それぞれの気候風土が生み出したご当地野菜(食材)が存在しているはずです。それらは、ただ「おいしい」だけでは終わりません。つくり、伝え続けてきた農家や地域特性を抜きには語れないのです。昨今のテレビ番組は、どこも食を取り上げています。しかし一部を除いて、生産者の顔や地域といった食材の背景がわかり、なおかつ消費者とつながるような視点を見出すことはできません。
私たち消費者は、生産(者)のことをあまりにも知らなさすぎます。だから、食に感謝が足りないのです。私の子どものころがそうであったように……。
だからいまこそ、子どもたちには、ご当地食材の魅力とともに、そこにかかわる生産者の方々の思いと周縁を知ってほしいと思うのです。それが、子どもたちにとっての故郷の味になるはずだし、故郷の味を知っている人は、郷土愛も育まれた心が豊かな人に成長していくのだと思います。それを手助けすることが、私たちの役割ではないかと強く思うこの頃です。
皆さんは、ご自分が住んでいる地域のご当地食材をご存知ですか?
大学卒業後、証券会社に入社。その後、福岡県筑紫野市立筑紫東小学校、岐阜大学教育学部附属小学校、東京学芸大学附属竹早小学校ほかで教職に従事。
現在は名古屋市の公立小学校で、道徳教育に磨きをかけながら、食生活の重要性を伝えることに注力しています。
趣味は、旅行、バレーボール観戦、ドライブ。
竹井塾を入口に、日本中で頑張る先生・栄養士・家庭を含め、みんなで子どもたちと食の大切さを語り合える場をつくっていけたらと考えております。
そして将来の夢は、日本の素晴らしい道徳教育を世界にも広げていくことです。