第7回 食は家庭と学校の架け橋(パート4)
参加者
- 竹井 秀文(名古屋市立公立小学校 教諭/竹井塾塾長)
- 藤原 涼子(仮名・公立小学校 栄養教諭)
- 西秋 勇一(仮名・特別支援学校教諭)
- 菅谷 朝香(仮名・特別支援学校教諭)
- 内田 正幸(食品ジャーナリスト)
食の適時性と「おふくろの味」
特別支援学校の子どもたちが偏食を克服するには家庭の協力が不可欠で、そのうえ、家庭教育まで行わなければならないという話が出ました。普通学級でも事情は変わらないのではないでしょうか。そして、そこまで学校が担わなければならないのかという素朴な疑問も持ちます。
かつては家庭が担っていた部分を、学校が肩代わりしているという印象はあります。これは食に限ったことだけではありませんが、経験的に、食に関しては普通学級も大差はないのではないでしょうか。
賢明なお母さんからは、「そこまでやっていただいて申し訳ない」とか、「こういうところは家庭の役割ですよね」という言葉をいただくこともあります。結局は、食も含めて親御さんがどういう環境で育ったかが、子どもたちに投影されてくるのでしょうね。
食についてはかなり前から加工食品が全盛で、“チーン”してどの家庭でも同じ味。竹井さんが指摘するように「おふくろの味」はいま何処で、どこでも“袋の味”が幅をきかせているようです。
私は博多の出身で、「おふくろの味」は筑前煮です。家庭ごとに微妙に味付けは違いますが、正月に帰省して食べると「あーっ、おふくろの味だ」と感動しますよ。久しぶりなのに味を覚えている。おふくろは私に、「どげんね?」と聞いてきます。そうして母親は、昔の味と違っていないかを確かめているわけです。
“袋の味”といえば、加工食品には素材以外にもさまざまな物質が添加されています。ただ、それが人体に蓄積されて悪影響を及ぼしかねないことは知らされていません。20数年前になりますが、それに警鐘を鳴らしている書籍を読んだことがあります。それ以来、私の落ち度で自分の子どもたちに何かあると困るので、食に細心の注意を払うように心がけてきました。食は心身を育む基本ですから、家庭では加工食品に依存しすぎない食生活が広がることを期待したいものです。電子レンジが発する電磁波についても、「悪い」とは思いながらも、どう悪影響があるのかはっきりと知らされていないのが現状ですからね。
加工度が高ければ、保存料や着色料をはじめとする化学合成された食品添加物に頼らざるを得ないことは自明のことです。しかも、日本はEUのように予防原則※ではなく、問題が起きてから規制するのが基本姿勢ですから、加工食品に何が使われているかについては、家庭はもっと関心を向けた方がいいでしょうね。そもそも、化学合成された添加物は置いていません。素材から調理するのが安全、安心にとって何より、ということを忘れないようにしたいし、小さい時から成長期にかけては特に注意を払いたいですね。
食でもう一つ大切なのは、その適時性です。食生活の改善は高学年になるほど時間がかかり困難さが増します。幼児段階で、それは比較的容易ということを家庭は心しておくべきでしょう。
また、乱れた食生活は、大人になってから病魔に襲われるなど取り返しがつかないことに繋がりかねません。たとえ、子どもの思い通りにならなくても、どうすれば食べられるようになるかを探っていくのも教育だと思います。
「三つ子の魂百までも」ですね。筑前煮のように味覚についても同じことが言えるでしょうね。
ピアジェの発達理論があったわけではない、はるか昔の諺です。感心するしかありませんが、適時性については、牛乳の一件でも実感します。
適時性も含めて、繰り返しになりますが食の基本は家庭です。給食は月曜日から金曜日までの1日1回しかありませんから。
食育の基本は家庭で、もちろんその協力も不可欠です。ただ、給食は1日1回でも年間で180回もあり、そこはさまざまなことを発見し、家庭と結びつくきっかけにもなります。
実は、給食の時間にお箸の持ち方が怪しい子どもが何人かいることに気付き、学級全員で正しいお箸の持ち方を練習したり、お箸で豆をつまむゲームをやったりしたことがあります。そして、家でもその持ち方を続けるようにと励ましたところ、正しく持つことができるようになった子がいました。家族からは「子どもがお箸を持てるようになりました」というお手紙をいただきました。この例は、給食が子どもだけではなく、私たちにとっても発見する場でもあることを示しているように思います。
※予防原則
1990年頃から欧米を中心に取り入れられてきた考え方で化学物質などの新技術などに対して、環境に重大な影響を及ぼす恐れがある場合、科学的に因果関係が十分証明されない状況でも規制措置を可能にする制度や考え方です。欧州では、食品安全など人の健康全般に関する分野にも適用しています。
【総括】(竹井塾長)
食は、家庭と学校の架け橋になる。しかし、家庭での食事の話題はタブーとされ、家庭における食生活が見えにくい。給食時間に「お母さんのつくってくれた○○がおいしかった」と話す姿をたまにみることがある。それは、おいしい給食を食べたことで、おいしかった「おふくろの味」を思いだすのであろう。
食は、常に子どもたちの心に響いているのである。このような学校と家庭との架け橋を今後は期待するしかない。
「おふくろの味」は、ちゃんと子どもたちの心にひびとーとよ。
竹井塾 塾長 竹井 秀文
(次回から、「給食は社会の窓口」をテーマに座談会は続きます)