第14回 食は子どもたちの未来をつくる(パート3)

参加者

  • 竹井 秀文(名古屋市立公立小学校 教諭/竹井塾塾長)
  • 藤原 涼子(仮名・公立小学校 栄養教諭)
  • 西秋 勇一(仮名・特別支援学校教諭)
  • 菅谷 朝香(仮名・特別支援学校教諭)
  • 内田 正幸(食品ジャーナリスト)

子どもたちに伝えたい食文化

竹井-

藤原先生は食育に熱心で、子どもたちに何を伝えたいかと聞いたところ「日本食」と即答しました。

藤原-

より具体的に言えば日本の食文化です。というのも、日本(人)は食について普通にすごいことをやっていることに気付いていないからです。南北に弓なりになって数千kmに及ぶ日本列島は季節感があり、さまざまな環境のなかでそれぞれの地域が独自の食文化を生み出し、しかもそれを健康的に食べてきました。野、山、海ともに豊かな環境に恵まれ、そこから、自分たちの周囲の自然を尊重し、自然の味を活かす料理が生まれ育まれてきました。さらに、味噌、醤油といった発酵食品の歴史的な豊かさもあります。それにもかかわらず、ハンバーガーであり、「フランス料理が素敵!」となってしまっています。それを否定はしませんが、日本の食文化を知れば健康で楽しく、そして素敵なことにも気づきながら生きていけると思います。

内田-

過去から引き継ぎ未来へつなげる。多少の変化はありつつも基本は大きく変わらない。食文化とはそういう性格のものですよね。ところがです。和食文化がユネスコの無形文化遺産に登録されましたが、それは和食、広く言えば日本の食文化が崩壊の危機に瀕していることを意味してもいるのです。脂肪の摂りすぎという欧米化やグルメブームなどによって和食のスタイルが崩されてしまい、主食のご飯と汁・菜・漬け物の副食という形の日常食が疎かになりつつあるというわけです。その結果が生活習慣病の蔓延です。
それはともかく、和食というと料亭をイメージしがちで、その定義はぼんやりとしていますが、食の研究者は「和食はなによりもまず一般家庭の食事であることに間違いありません」と断言しています。それだけでなく、旬であり、郷土の料理であり、行事など地域の催事の料理でもあるとも述べています。

藤原-

お誕生日給食会を催すことがあり、その月の旬の食材や行事食を知っておくことも必要だと思い、写真を子どもたちに渡すことを食育の一環として取り組んできました。旬が美味しくて安い、しかも栄養豊富だとわかれば食への理解が深まるきっかけになるはずですからね。子どもたちはそれを楽しみにして家庭に持って帰ります。

竹井-

そうした食育の実践が学校現場に広がらないのが歯がゆいですね。

西秋-

日本の食文化に関して言えば、箸文化には驚かされます。というのは、箸の持ち方は鉛筆の握り方と同じだからです。食べることと勉強がつながっている、こうした国はそうあるものではありません。

菅谷-

中国も韓国も箸を使いますが、日本のように先が細くなり掴みやすいようにはなっていません。誰が考えたのでしょうか。しかも、女性用、男性用と手のひらの寸法に合わせて長短があるから繊細ですよね。

藤原-

韓国で思い出しましたが、韓国人の知り合いが、「日本人は料理を何でも日本流に変えて文化として取り入れる」と感心していました。

内田-

良し悪しは置くとして、戦後の学校給食は米国の余剰小麦によるパン食と脱脂粉乳で再開し、街には栄養指導車(キッチンカー)が走って粉食を中心にした脂質重視、つまりは米国化したのもその一例かもしれませんね。うまく取り入れてきたからでしょう、食卓に上るハンバーガーは和食かといった議論もあるようです。ただ、食の洋風化は生活習慣病の一因とも指摘され、その反動の表れと言えるかもしれません。一方で、海外では和食ブームなのに、日本では一般家庭の食事が見直されることは少ないような印象を受けます。弁当は相も変わらずに“チ~ン”がメインのようですからね。

竹井-

「各地域の産物、食文化や食にかかわる歴史等を理解し、尊重する心をもつ」ことも、学校における食育のテーマに掲げられています。文化としての日本の食をどれほど理解しそれを継承できるのか。栄養教諭任せで済まされることではなく、私たちに等しく突きつけられている課題ではないでしょうか。

※和食(文化)
料理のポイントは「ご飯」「汁」「菜」「漬け物」という4点セット。日本の食は、ご飯を主食として、それをおいしく食べるために汁と菜と漬け物を副食として添えます。そして“箸と碗(椀)”を使い、主食と副食を交互に手に持って食べるというのも特徴の一つです。また、日本における発酵食品の歴史的な豊かさを忘れてはいけません。なかでも、味噌と醬油は「日本の味を決めた存在」とまで言われています。

【総括】(竹井塾長)

毎日食べる「食」に、子どもたちの目を向け、意識させることは、「生き方」をみつめることになります。「食」によって、私たちの命は、生かされていることを忘れてはいけないのです。

日本食の魅力ば知らないかん。その地方でしか食べられん、おいしかもんを食べて、ありがたく生きていかないかんばい!!

【座談会総括】

竹井 秀文

私たちは、これまで「学びの食」について語ってきました。そのような視点で「食育」をみた場合、いかに子どもたちのものになっていないか、家庭はもちろん教育現場に浸透していないかという大きな課題が浮き彫りとなってきました。と、同時に危機感さえ覚えます。

食を学ぶことは、心を育てることである。
食は、人を育てる。

これからの竹井塾は、「学びとしての食」という新しい理念を掲げ、「食育」とはちがう食への教育活動を垣根なく推進したいと考えています。
「食を疎かにすることは、子ども(たちの未来)を疎かにすること」だと思うのです。
今まで熱心にお読みいただけた方、本当にありがとうございました。そして、子どもたちのために、ぜひ、一緒に活動しませんか。

竹井塾 塾長 竹井 秀文