第13回 食は子どもたちの未来をつくる(パート2)

参加者

  • 竹井 秀文(名古屋市立公立小学校 教諭/竹井塾塾長)
  • 藤原 涼子(仮名・公立小学校 栄養教諭)
  • 西秋 勇一(仮名・特別支援学校教諭)
  • 菅谷 朝香(仮名・特別支援学校教諭)
  • 内田 正幸(食品ジャーナリスト)

大人になって生きる食の学び

内田-

食は生きる基本ですから子どもの将来が係っています。「今が良ければすべて良し」とならないのが食ともいえるでしょう。だから家庭は当然のこと、補完的ではあっても学校も子どもたちの未来を見据えた食に目を向けなければなりません。

菅谷-

乱れた食生活を送っていると、その先に待っているのは小児成人病です。身体を作る大事な時期に食のリズムとバランスを崩し、親子で入院生活を余儀なくされたケースを紹介(「食は家庭と学校の架け橋 パート1」)しましたが、子どもの病名は診断の結果、小児糖尿病でした。糖尿病は遺伝も関係しますが、医師には「遺伝ではなく食生活が原因ではないか」と言われたそうです。食生活を疎かにすると、将来に向けて大きなリスクを抱えることが往々にしてある。そのことを強調しておきたいですね。

西秋-

特別支援学校に入学したての頃は、たとえば野菜をまったく受け付けないというように偏食する子どもが目立ちます。それを放置したままにすると、将来どのようなことが待ち受けているのか、です。偏食を極力少なくすることで丈夫な身体の基礎をつくってあげる。そうすれば、就職しても「好き嫌いはないし、いい子なんだろうな」と他人から理解され、愛される存在になるだろう―そんなことを考えながら偏食を減らす取組みをしています。
特別支援学校の子どもたちは、今も、そして将来も他人の手を借りて生きていかなければならない場面が多かれ少なかれあります。それでも自分でできることを増やしたり、他人と一緒に食事をする時にきれいな食べ方ができれば、それはプラスポイントになるはずです。そうした理由から、「食べ方がきれいだね」と受け止めてもらえるように食事マナーの指導にも私の学校では相当、力を注いでいます。躾は、障害の軽重ではなく、「やったかやらないか」だと思っているからです。支援してもらう人に気持ち良く支援してもらうためにも、偏食をしないことや、ご飯粒を一粒も残さずに食べるといった常識的な食事マナーを身に着けておくことは必要であり、将来的にも有利に働くと思っています。

竹井-

特別支援学校だけではなく、普通学校にも応用できる考え方だし取組みですね。

西秋-

特別支援学校の子どもにも良いところはいっぱいあるにもかかわらず、見た目で判断されることもあります。しかし、マナーも含めて食については子どもたちの将来のためにも、家庭と協働しながら積極的に取り組んでいます。これらを普通学級へ発信できれば学べることは多いはずです。

菅谷-

食と子どもの将来について実感することは、小さいころから甘いものを摂りすぎていないかということです。私の子育ての経験で、1人目の子育て中に「ジュースを飲ませ過ぎかな」と思っていたところ、どうも子どもが落ち着かないなと感じたことがあります。そこで控えるようにしました。因果関係はハッキリわかりませんが、すると落ち着きを取り戻したように感じるようになりました。私が勤める学校の子どもたちも、小さい時から甘さ成分を多く含んだ飲料を飲み続けている子どもが多いように見受けられます。

西秋-

牛乳を飲まずに、刺激の強い飲料を好む傾向は見受けられますね。

内田-

刺激の強い炭酸飲料などの飲み過ぎは、いまや一般的です。その結果がペットボトル症候群です。小児糖尿病と関連していますが、飲料メーカーは最近、甘味成分をカロリーの低い合成を含めた甘味料へとシフトさせています。ただ、その中には人体への悪影響が懸念されている成分をあります。また、砂糖についても子どもへの悪影響が指摘されています。甘味料に限りませんが、何が正しくてそうでないのか。情報は数多あるけれどもその中で皆、右往左往しているようです。ただ、小さいころから身近に、そしてよりましな食情報に接していれば将来の判断材料になります。それも含めての食育なのだろうと思います。

藤原-

成人式でかつての教え子と出会い、「先生の名前覚えている?」と聞いたところ、ウ~ンと考えながら「食育の先生」と言われたことがありました。食育を覚えていてくれたことは新鮮な喜びでしたね。時間が経っても食についての学びが大人になって生き、食への再認識につながるのではないでしょうか。

※ペットボトル症候群
正式には「清涼飲料水ケトーシス」と呼ばれるこの病気は、糖分を過剰摂取することが原因となり、吐き気や腹痛、意識がもうろうとするなどの症状を引き起こします。糖尿病と関連がある病気で、炭酸飲料をはじめとするソフトドリンクの飲み過ぎで突然発症します。小学生でも発症することもあり、「予防できるのに、知識が広まっていない」として問題視されています。一般的なソフトドリンク1本(500ml)には、50~70g程度の糖分が含まれています。これは角砂糖15個分に相当しますが、炭酸飲料の場合にはその甘さを実感しづらいために沢山飲んでしまうのです。