第42回 世界の食と日本【フィリピン③】

参加者

  • 番場 正人(フィリピンミンダナオ島在住・ボランティアで植林活動中)
  • 竹井 秀文(名古屋市立公立小学校教諭/竹井塾塾長)
  • 内田 正幸(食品ジャーナリスト)

「子どもを育てる」とは

竹井-

『竹井塾』は、子どもたちだけではなく、現場の先生たちにも食について学んでほしいと考えていますが、現在の食育には「一過性のブームで終わるのではないか」との指摘もあります。フィリピンをはじめとして諸外国から評価される「子どもたちを疎かにしない」食の在り様について、『竹井塾』ならではの提案ができないかを模索しているところです。

番場-

食育という課題が出てきたこと自体が、時代の要請ではなかったのでしょうか。昭和の時代であれば父母のいないときには祖父母や親せきが子育てと躾の安全弁を果たしていました。この時代には食育という課題自体が、少なくとも社会的な要請としては出てくる素地はなかったでしょう。ところが核家族化が進行し、その安全弁の機能がなくなってから「かぎっ子」や「孤食」の問題が出てきたように思います。

内田-

子どもの孤食は1980年代から話題になり始め、2000年前後から関心を集めるようになりました。核家族化や共働き・貧困世帯の増加などが要因と指摘されています。

番場-

古い考えの方たちは、過去の家族形態に戻そうと考えるかもしれません。家族の下で育ててこそ立派な大人になれるし、母親が子育てを専業主婦として行うのが子供にとって一番の幸せである、と。しかし、昔ながらの二世代同居の煩わしさを受け入れる、といった流れは出てこないと思います。
これからの日本を考えると、生産年齢人口の減少を背景に共稼ぎ家庭の割合は増加すると考えています。その中で安全弁としての役割は「学童保育」や「子ども食堂」などにみられる社会的負担として行政やNPOが担っていく方向性しかないのかもしれません。しかしこれは単なる継ぎ当てのようにも思われます。

内田-

なぜでしょうか。

番場-

確固とした理念がないからです。社会の中での子どもの位置づけ、つまり「子どもは共同体の宝」であるという認識です。共同体にとって必要不可欠なことは、その共同体が未来にわたって繁栄していくことです。そのためには次世代を大切に育てることが欠かせません。この中には食文化を含んだ文化や伝統の継承も入ってくるでしょう。

内田-

現状の孤立化した子どもたちを、どのように具体的な方策として育んでいけばよいとお考えですか。

番場-

答えのひとつとして「共同体として子どもを育てる」という考えはどうでしょうか。「家族」が担えなくなった部分を「共同体として」担っていくのです。具体的には「老人ホーム」「保育園」「幼稚園」「学童ホーム」を隣接して建設し、相互に関われるようにする。それらの交互の交流により世代間の交流を図り、文化や伝統の継承も行っていくことができる。そんな方向性はいかがでしょうか。

竹井-

『竹井塾』の基本理念は「家庭、学校、地域において、食を疎かにするということは子どもたちを疎かにすること」というもの。「これでいいのか子ども(日本)の食」というわけです。食には文化と伝統も入ります。これを継承するキーは、世代間の交流となります。

番場さんのご紹介

カトリック女子修道会のCBsistersと一緒に、フィリピンの少数民族であるバジャウ族やマノボ族といった経済的に恵まれない人々の自立活動をサポートしています。
ブログ「フィリピン ダバオ郊外 トリルの海辺で」にて、現地情報を公開中です。フィリピンミンダナオサントル会を通じて、CBsistersに寄付することができます。