第52回 世界の食と日本【東南アジア[ベトナム②]】
参加者
- 高島 タイン(日本語学校「朝日国際学院」事務局長代理 ベトナム出身で日本に帰化)
- 菊池 正敏(日本語学校「朝日国際学院」講師、現役時は海外赴任と柔道家として世界各国に在住経験あり、ラオス・日本武道センターの建設にも尽力)
- 竹井 秀文(名古屋市立公立小学校教諭/竹井塾塾長)
- 内田 正幸(食品ジャーナリスト)
食材の新鮮さを保証する市場
ベトナムと国境を接するラオスは内陸部なので魚といえば淡水魚ですが、ベトナムはハノイやダナンなどの都市をはじめ、海に近いので海産物も豊富でしょう。
もちろん、魚介類も食べますが、割合としては淡水魚が多いですね。代表的な魚はライギョです。丸揚げにして食べます。また、日本と同じようにすっぽん料理もあります。日本ではすっぽん鍋が圧倒的に有名ですが、ベトナムではそれ以外に揚げたり炒めたりと料理の種類は豊富です。ただ、近年はすっぽんやカエル、淡水魚の天然物が少なくなってきていることもあり、養殖物が多くなってきています。
話は変わりますが、高島さんには、日本で言うところの“おふくろの味”はありますか。
カニのスープですね。海のカニではなく川で獲れるカニです。日本にも生息しています。もちろん味は塩味で、ツルムラサキなどの野菜が入っています。また、塩とニンニクや唐辛子などで漬け込んだ小なすも“おふくろの味”で、家庭によって味は微妙に違います。それ以外にも、市場で買ってきた豚肉を茹で、塩と胡椒、それにレモンを絞ったタレをつけて食べる料理や、家庭で飼っているニワトリを絞め、毛抜きをして内臓を抜き、捌いた肉を野菜などと炒めた料理も家庭の味です。
日本では市場で豚肉を買うことができるのは夢のような話で、スーパーで買うしかありません。
ベトナム人が、食でもっともこだわるのは新鮮さです。魚も市場まで出かけて「この魚」と言えば、そこで捌いてくれます。ニワトリもアヒルも同じです。
贅沢、羨ましいです。
贅沢ではなく、ベトナムでは当たり前です。田舎では、敷地に魚を養殖する池があり、ドライフルーツやマンゴ、ザボンなどの果実を育て、それが食卓を飾る家も珍しくありません。さすがに都会ではそうはいきませんが、それでも大きなスーパーに隣接した場所に食材を売る市場があるので、多くの人はスーパーより市場で買い物をしますね。新鮮だからです。たとえば豚肉は、養豚業者が早朝の3時から4時ごろまでに解体し、市場には7時から8時に並びます。それを買ってきて自宅で調理するのが一般的です。その市場は村単位にあり、南部の果物など以外は、その地域で獲れた食材がほとんどです。
日本ではスーパーに行けば食材は何でも揃いますが、ほとんどがパック詰めです。その姿はどう映りますか。
日本の食品は安全ですが、どのお店で買っても味が違いますし加工食品が多すぎる印象です。ベトナムでは食材を市場で買い、それを調理して朝食にすることも珍しくありません。市場まで歩いて10分、バイクなら5分という近いところにあるからそれが可能なのです。
ラオスも同じで、市場は人々が集まりやすいところに設けられていますね。
市場で、魚も肉も野菜もその実際を小さいころから見ていれば、日本のように「お魚は切り身の姿で泳いでいる」という笑えないエピソードは出てきませんね。
でも、そうした教育しか受けていないならやむを得ないかもしれません。私は1980年代生まれですが、90年代生まれになると、私から見ても食材をあまり知らないことがあり、「最近の若者はどうしたんだろう?」という気持ちになることがあります。
ベトナムも、いまの日本のようになってしまうのでしょうか?