第64回 世界の食と日本【ケニア②】
参加者
- カサリン・カリウキ(土木工学を学ぶために東京大学に留学中)
- 竹井 秀文(名古屋市立公立小学校教諭/竹井塾塾長)
- 内田 正幸(食品ジャーナリスト)
女性は子どもの頃から食事づくり
日本では一日三食のうちで夕食がメインとなります。これまでいくつかの国の方々に食文化を聞いてきましたが、ドイツのように昼がメインという国もあります。ケニアではいかがでしょうか。
夜がメインです。朝はパンとお茶(チャイ)のようにシンプルです。ただ、祝い事などの特別な日には卵やソーセージが食卓に並びます。お昼も朝と同じように軽いことが多いですね。
日本では外食店が多いこともあって、家で食事をしなくてもほとんど困りません。このため、働いている人などは「お昼は外食」というケースがほとんどです。
ケニアでも外食店が増えてきています。首都・ナイロビでは寿司店や焼き肉店もあります。ナイロビ以外でも外食できる店はありますが、基本はケニア料理になります。また、南アフリカ資本のファストフード店もあり、イギリスの代表的な食べ物のフィッシュ&チップスや、フィッシュ&チキンなどがメニューの中心です。
昼食はそういうところを利用するのですか。
会社員を含め多くの人が利用していますが、夜は家に帰って食べます。ケニアでは家族で一緒に食べることを大切にしているからです。
夜の食卓にはどのような料理が並びますか。
肉類は牛肉、鶏肉、羊、ヤギなどです。豚肉はイスラム教徒が人口の30%を占めていることもあってあまり食べません。料理では肉のシチューや、豆のシチュー「ギゼリ」、魚料理などが並びます。肉類を炭火でローストした「ニャマチョマ」は、ケニアの代表的なメニューです。
肉には宗教の影響があるようですが、これ以外に民族や地域での差はありますか。
主食と同じように、魚に関しても地域差があります。ビクトリア湖に近い西部の地域で食べるのは、ティラピアやナイルパーチなどの淡水魚になりますが、東部地域ではインド洋で水揚げされた魚介類になります。もっともポピュラーな魚はサバ類です。エビ類やタコ類などもありますが、価格が高いので日本のように頻繁に食卓に並ぶことはありません。
私が生まれた中部地域では、魚は身近な食材ではありません。私が首都のナイロビに出る前に18年間暮らした場所は標高が1500mもあり、魚を食べたのはわずか2回のみでした。
日本の家庭では女性が料理を担うことがほとんどです。ケニアではどうでしょうか。
子どもが多いこともあって、ケニアの女性は小さいころから食事を作ることが多く、5歳ごろから手伝いを始めることも珍しくありません。10歳になれば家族の食事を作ることが普通になります。伝統的にキッチンワークは女性です。料理以外の掃除や洗濯も子どもの頃から手伝います。
日本では、家事を子どもが手伝うことはあまりありません。
家事について日本の子どもが何も手伝わないことを知って、本当に驚きました。
男性は料理をしないのですか。
はい。ただ、最近は変わりつつありますね。
その料理ですが、味付けの基本は?
塩が基本です。たとえばケニアは豆類が20種類近くありますが、これも塩で調理し、日本のように砂糖を使うことはありません。
日本では、煮豆に代表されるように豆と言えば砂糖となりますが、それが標準ではなく、世界的には少数派のようです。世界の食文化を知ることで、「日本がこうだから世界もそのはず」と捉えずに、日本の食文化を相対化することが必要かもしれません。