第68回 世界の食と日本【ブラジル②】
内田 正幸(食品ジャーナリスト)
移民社会が生んだ豊かな食文化?!
人口が約2億人のブラジルは「移民の国」と言われている。外務省(日本)によれば、北部は先住民であるインディオやサハラ砂漠西方から来たアフリカ系、中部はポルトガル系移民の他にイタリア系も多く、サンパウロ近郊には日系人や、シリアやレバノンなどの中東系の人々も多い。さらに南部ではウクライナやポーランド、ドイツなどヨーロッパからの移民の他、アルゼンチンに近い地域では「ガウーショ(牛飼い)」の文化も見られる。
このように、多種多様な人々が生活しているブラジルは、人種だけではなく「文化の融合地」でもあり、食文化をはじめ多様な文化が育まれ、共存していることは前回紹介した通りだ。
ソウルフードとして、これも前回紹介したフェジョアーダ。日本のブラジル料理店でも定番となっているが、「家庭で味が違うので日本の“おふくろの味”のようなもの。水曜日と土曜日に食べるのが基本ですが、調理に手間がかかるので今では週末に食べる家庭が多い」(日系3世のブラジル料理店主)という。もっとも、手間がかかる故なのか、食品メーカーが幾多の缶詰を販売しているというから、日本でおふくろの味が“袋の味”に取って代わられているように、フェジョアーダも同じような運命をたどるのかもしれない。
それはさておき、多様な食文化を育んできたブラジルでも家庭における食事は一日三食が基本。地域によって差はあるものの、朝食で一般的なのはミニ・フランスパンにバターを塗り、チーズやハムなどを挟んで食べ、コーヒーを飲むというスタイル。これ以外に果物かサラダが加わることが多いという。
昼食は、インディカ米を炒めて炊き上げたご飯か、ふつうに炊いたご飯と、豆を煮込んだフェジョンがよく食べられている。日本でご飯に味噌汁が欠かせないように、ブラジルではこのフェジョンを欠かすことができない。これに肉類のソテーにサラダがつくのが定番で、肉類で多く消費されるのは牛肉。また、米飯以外に、ニョッキ、ラザニアといったパスタ類が主食になることもある。
日本と同様に昼食は外食が多く、街中のレストランでは、様々なメニューがビュッフェ形式で提供されている。また、たとえば水曜日と土曜日はフェジョアーダというように、曜日ごとに日替わりの定食メニューが決まっているレストランもあり、これがブラジルの外食店の特徴の一つにあげられている。
ちなみに、前出のフェジョンはお汁粉のように見えるが甘くはなく、塩味が強いのが特徴だ。「世界の食と日本―ケニア編」でも紹介したように、豆類の調味は=塩という国が比較的多く、豆類の料理は甘いという固定観念を持つ日本人は、世界的には少数派だということが窺える。
夕食はというと、これも日本と同様に1日の食事の中でメインとなる。昼食の取り合わせにリングイッサを加えたメニューが一般的だという。リングイッサはポルトガル風のソーセージのこと。“ブラジリアンソーセージ”の異名があるほど食生活に根付いている食材だ。また、ポルトガルだけではなく、イタリアの食文化の影響が色濃いブラジルでは、レストランやケータリングでピザをたべることが多く、この場合は主食になる。
ところで、日本人の移民が多かったブラジルでは近年、寿司や牛丼、ラーメン、焼きそばが広まり、日本食がブームになっているという。もっとも、細巻きに衣をつけて油で揚げたものなど、日本の寿司とは異なるブラジル流にアレンジされたメニューもある。また、焼きそばもインスタントでは、ラーメンのようにスープに浸して食べるシロモノもあるらしいが、これらもフェジョアーダと同じように、移民社会が生んだ豊かな食文化の一つ、と言えるのかもしれない。