第69回 世界の食と日本【ブラジル③】

内田 正幸(食品ジャーナリスト)

牛肉、コーヒー、カカオと食文化

牛肉の消費量が多い国はどこ?と問われて浮かんでくるのは米国だろう。実際、国連食糧農業機関が2015年に公表した「国別の牛肉消費量」によれば米国が第一位。実は、これに次ぐのがブラジルで、その後にEU、中国と続いている。ただ、別のデータでは、一人当たりの消費量でブラジルは米国を凌いでいる(2014年)。また、さまざまな統計をミックスしたデータの一人当たりの消費量ランクでは、ブラジルは南米のウルグアイ、アルゼンチンなどに次いで第5位となっている。資料によって順位は入れ替わるが、何れもブラジルが“牛肉消費大国”であることを示している。

ブラジル人は牛肉好きだ。最新の政府の家計調査によれば、肉類の消費量のなかで牛肉が約46%を占め、国民一人当たり年間、家庭で約17kg、外食で約23kgを消費している(日本は合計で7kg弱)。ちなみに、ブラジルは牛肉生産量で米国に次いで世界第2位なので“牛肉生産大国”でもある。

牛肉料理の定番で、パーティーなどで人気があるのはシュラスコ(串焼きバーベキュー)だ。岩塩で味付けし、各部位ごとの塊を串に刺して炭焼きにして食べるスタイルは、日本でもブラジルを代表する料理として浸透している。元々はブラジル南部のガウーショ(カウボーイ)料理だったが、時代の変遷とともに都市部のレストランや家庭でも食べられるようになった。それが南米の各国に伝わり、アルゼンチンやウルグアイにもチュラスコ、アサードと呼ばれる似た料理が供されている。

シュラスコは外食では専門のレストランの他、キロ売りのビュッフェレストランでも焼き場を用意して提供しているところも多い。また、前述したようにパーティーなどで人気があるため、これに対応するために街中の精肉店やスーパーでは、牛肉が部位ごとに売られている。ちなみに、人気のある部位はピッカーニャ(イチボ)と呼ばれる尻に近い部位だという。

牛肉の生産大国であるブラジルはまた、コーヒーとカカオの生産大国でもある。世界で生産されるコーヒーの約30%はブラジル産で、カカオは中南米でトップクラス(世界では第6位・2016年)。このため二つは食文化と不可分だ。

ブラジルは国別のコーヒー消費量が米国に次いで第2位。朝ごはんを「朝のコーヒー」を表す「カフェ・ダ・マニャン」と言うように、コーヒーは日常生活に深く根ざしている。好まれているのが「カフェジーニョ」という小さなカップで飲むコーヒーだ。砂糖をたっぷり入れるのがブラジル流。高品質な豆は主に輸出に回るために国内では安価な豆が主流となり、「味をごまかすために砂糖をたっぷり入れるようになった」との指摘もある。

ブラジルはカカオ栽培に向いた地域が多く、質の高いカカオ豆が作られることから各国に輸出されている。国内向けで需要が多いのはココアパウダーやチョコレートを使ったお菓子類。子どもの誕生日などに必ず用意されるのが、ココアパウダーにコンデンスミルクやバターなどを入れて作った「ブリガデイロ」だ。ポルトガル語で准将を意味する国民的菓子だが、創作されたのは1940年代ごろとも言われている。ただ、人気の菓子であることに変わりはなく、誕生日だけではなくデザートとしても一般的に食べられているという。

ブラジルでも買い物はスーパーで済ませることが多い。ただ、日常生活に溶け込んでいる文化として見過ごせないのが、100年以上の歴史があるとされるフェイラだ。各地で開かれる露店市場のことで、新鮮な野菜、肉、魚、卵などの生鮮食品の店舗や、雑貨店、駄菓子店などが立ち並ぶ。場所によって曜日や時間帯が決まっているが、午前7時ごろから始まり1時過ぎごろに店じまいするのが一般的だ。食材では牛、豚、鳥の肉類、野菜などの他、地域によっては魚の種類が豊富なところもあり、地域とのつながりが密接だという。

世界各国や日本にも似たような「市」がある。日本では「築地」や「豊洲」だけが脚光を浴びているが、地域の人々とモノが循環する歴史が刻まれた「市」が果たしてきた役割と文化にも目を向けたいものである。

【博多弁の総括】

竹井 秀文

ブラジルは、距離は遠かけど、日本にとって身近な国のひとつばい。シュラスコとか、好きな人は多かとよ。デザートでん、飲み物でん、食を豊かにできる国民やけん、日本人と感性が近いかもしれんね。南米の音楽(フォルクローレ)が、どこか日本の音楽に似とうところがあるばってん、それとリンクしたばい。
豊かな食は、豊かな心を育むとよ。

竹井塾 塾長 竹井 秀文