第71回 世界の食と日本【和食②】

参加者

  • 阿部 修(「四季和食『百菜』赤坂」代表・45歳)
  • 竹井 秀文(名古屋市立公立小学校教諭/竹井塾塾長)
  • 内田 正幸(食品ジャーナリスト)

和食文化が残るのは行事食?

竹井-

家庭における食事は、単純に食べることだけではなく、たとえば魚をきれいに食べるという作法も含めて学びのエッセンスが詰まっていて、それを覚える機会にもなります。ところが、その食卓も崩壊の危機に瀕してはいないか?というのが私たちの問題意識です。

阿部-

いまの子どもたちへ教えるべき親たちが多分、家庭の食事で何も教えられずに育ってきたということも影響しているのかもしれませんね。

内田-

学校の栄養教諭さんをはじめ、学校給食現場の経験がある栄養士さんたちに取材したところ、家庭の食の崩壊が始まったのは、「今の子どもたち(小中学生)の親の世代はもちろんのこと、そのまた親の世代」あたりからという指摘が圧倒的でした。

阿部-

ところが不思議なことに、おそらく何も教わっていないであろう40歳~50歳代でも、たとえば会社の接待では和食となります。こういう仕事をしていると、そのことを実感しますね。あくまでも私の勝手なイメージですが、接待で洋食というのは少ないのではないでしょうか。だから、和食が無形文化遺産に登録されたことについて、「私たちにとっては何も変わらない」と思う一方、和食もまだまだ捨てたものではないなと思っています。

内田-

しかし一方、たとえば“和食の知恵が満載”と言われるおせち料理も、料亭などが監修するおせち料理が人気を博しているように、家庭では作らなくなっているようです。

阿部-

昔は女性が家庭の食事をつくることが当たり前のようにみられていました。ただ、最近は働く女性が増え、料理する時間が取れないために手の込んだものより簡単なもので、という時流なのでしょう。ただ、注文おせちがそれなりに支持されているのは、「おせちを食べよう」という人が増えていることの表れとも言えます。
これはおかしな話で、家庭で西洋風和食が日常的であるなら、たとえばカレーライスがおせち料理であってもかまわないわけです。ところが、家庭で作る作らないはさておき、「お正月はおせち料理=和食」という文化はまだ残っているのです。この他のたとえば「七・五・三」の祝い膳も和食です。まさか、お祝いの食事をファミリーレストランで、とはいかないでしょう。行事食ではありませんが、お葬式も洋食は出ません。日本人は信仰心が深くないにも関わらず、です。
こうしたあり様を知ると、「家庭での日常は西洋風和食なのに矛盾していませんか?」と思うのは私だけでしょうか。

内田-

経験的に、お葬式の食は地域性が強く出ます。阿部さんの話を伺っていると、和食文化が残っているのは、プロの世界と行事食だけということになりかねません。

竹井-

行事食は大きな変化はありません。それを参考にして、家庭における食を見つめ直すことができるかもしれませんね。

阿部-

家庭でも和食から学べることは多々あります。次回はそれもお話ししましょう。繰り返しますが、和食=面倒、難しいと考える必要はありませんから。