第96回 一般社団法人エルフ(education for life and food)設立

一般社団法人エルフ設立メンバー

  • 八木眞澄(代表理事)
  • 内野 祐(筆頭副会長)
  • 米田安利(副会長)
  • 渡邉達生(八洲学園大学教授)
  • 竹井秀文(竹井塾塾長)
  • 松尾博史(㈱洛慈社代表取締役)

「竹井塾」を発展させ、「『食の学び場』づくり」を目指して設立された一般社団法人エルフ。設立前後の経緯をメンバーのやりとりを交えてたどる。

(食品ジャーナリスト 内田正幸)

設立登記までの長い前夜②

内田-

前回「登記書類の準備までは順調でした。ただ、その後に大きな壁が立ち塞がっていたのです。これは予想外の出来事でした」と松尾さんは話されていました。何が起きたのでしょうか。

松尾-

いくつかありますが、その最たるものが離脱宣言です。一般社団法人化を向けて設立準備委員会を設け、その中心人物の内野さんが、登記書類に捺印した直後、「自信がない」「退く」と連絡してきたことです。

内田-

どのような経緯だったのですか?

米田-

まずは登記をするためには、就任を要請された各理事が実印を捺印して、公証役場で定款認証を受けなければなりません。竹井さんと渡邉さんと私が捺印し、その時に渡邉さんは「こういう活動は大事だよね、はじめの一歩だね」と。そして内野さんに登記書類を手渡しました。

内野-

翌日に八木さん、松尾さん、私が捺印するために集まりました。捺印も無事に終わり、「やっとここまでたどり着いたか~」と、登記書類を眺めながら「実印を捺印することは重いな」そんな思いが頭をかすめました。その後、3人で会食し最後の締めの言葉として、松尾さんから「内野さん、副会長としてエルフの今後は?」と聞かれました。私は咄嗟に「わからん!」と切り捨ててしまい、それがカチンときたのでしょう。松尾さんが「それなら帰る」という言葉を残して席を立ってしまいました。

八木-

その後ろ姿をうつろな表情で見つめていた内野さんは、呆然としていましたね。そして一言「八木さん、オレ、自信がない」と小さな声で呟いていました。

松尾-

席を立ったものの、当然、内野さんが「松尾、待て!」と追いかけてくると思って待っていたのですが、でも……。

内田-

えっ、来なかったのですか!

松尾-

残念ながら。で、翌日の早朝、内野さんから「エルフを退く」というメールが届いたのです。いや~、“驚天動地”とはこういうことを指すのか!と思いましたよ。八木さんに連絡すると同時に、内野さんにメールを20通近く送りましたよ。「とにかく会って話そう」と。

内野-

そこで八木さん、松尾さんに会い「しばらく休ませてほしい」ということで、この件は落着しました。

内田-

離脱宣言は、いくつかの要因が積み重なった結果なのではないでしょうか。

米田-

実は、準備委員会の立ち上げあたりから、メンバーの多くが“モヤモヤ感”という言葉を口にしていました。つまり、私たちは何を目指すのか、その目的達成のためにどんな活動をするのかが見えにくくなっていたのです。それを準備委員会の事務局長であった内野さんに提示してもらいたい―これがメンバーの総意でした。

八木-

「竹井塾」でつながりができた人と話しても「趣旨は理解できるが会員になるには…」と、やんわりと断られたりしていましたからね。

竹井-

九州の生産者団体には準備委員会のメンバーで面談しましたが、「食の見直しは大切」までは一致しても、「私たちも様々な取り組みをしている」と、そこから先に話は進みませんでしたから。

内野-

九州にはそれを含めてこれまで何度も足を運びました。ただ、わずかな例外を除いて「いま一つ」というのが私の印象でした。なかには、まったく埒が明かないケースもありました。これからどういう活動をするのかという具体的なことを明示できなかった、と我々の問題でもあったのですが。

内田-

暗中模索の感じがあったのでしょうか。

内野-

目指す旗印は「食の学び場」づくりだとしても、具体的な道具がイメージできませんでした。それを提示できなかったし、捺印寸前でさえ明確化できていなかった。私自身もモヤモヤ感が頂点に達していたのかもしれません。実印を捺印した瞬間に、いっきに今までの思いが押し寄せてきてしまって、ちょっと疲れてしまったのかもしれませんね。

渡邉-

内野さんには苦労をかけてしまいました。

内田-

具体的な道具をイメージできなくても、いままで時間をかけていろいろな話をしてきたことで、良いアイデアも出たのではありませんか。

内野-

そうなんですよ。いま集まっているメンバーは、多くの経験や知恵をもっています。そこから出たアイデアが多過ぎた、ということもあるかもしれませんが、私が離脱宣言をしても、「これほどヤリガイのある会」を離脱するハズがないと思われたかもしれませんね。まあ、そうなんですけど……。

八木-

内野さんには苦労をかけましたが、会議を重ねるごとに良いアイデアが浮かび、会議中に唐突に「八木さん、おにぎりむすび隊はどう!」という構想も飛び交っていました。この活動は国内だけではなく、お米を主食とする国々にも通じる「食の学び場」になります。さらに肉付けして大きなムーブメントにつなげたいと思っています。

渡邉-

このメンバーの唐突感にはいつも驚かされますが、内野さんを中心にした議論の積み重ねの結果だと言えます。

内田-

ということは、その中心人物の内野さんは、エルフには無くてはならない人とわかりましたので、この離脱宣言は、内野さんなりの「決意の表れ」だったのかもしれませんね。

内野-

そうかもしれません。メンバーには迷惑をかけましたが、無事、登記も終わり、一般社団法人として歩み始めたところです。


次回、一難去って、また一難