第72回 世界の食と日本【和食③】
参加者
- 阿部 修(「四季和食『百菜』赤坂」代表・45歳)
- 竹井 秀文(名古屋市立公立小学校教諭/竹井塾塾長)
- 内田 正幸(食品ジャーナリスト)
和食独特の旨味に気付けば十分
「和食」と言ったり「日本食」と言ったり、日本の食はややこしいところがありますが、ズバリ、その神髄は何なのでしょうか。
皆さんが聞きなれた言葉に「一汁三菜」がありますが、簡潔に言えば「生」でしょう。フレンチは煮込んだりする料理が多いことと、ソースが命ということもあり冷凍ものでも味はそれほど変わりません。しかし和食は鮮度が大事であり、それに少し手を加えて殺さずに活かすのが料理人でしょう。そのために料理人には素材を見極める目だけではなく、信頼できる漁師さんとの関係も不可欠です。魚だけではなく、肉も野菜も同じ。私が産地訪問を経て辿り着いたのが淡路島産でした。
何を選択するかは家庭でも大切になってくるでしょうが、どうしても価格に目を奪われてしまい、産地訪問とまではいきません。
食品を購入する理由は価格や国産など家庭で様々でしょうが、たとえば産地表示はスーパーなどでも生鮮食料品には義務化されていますから、こだわろうと思えばある程度こだわることはできます。
価格だけではなく、家庭でも選択することが何かにつながるという「選ぶ目」も養うことも必要ですね。
そのうえで時間に余裕があれば、買い物をしてから自分で調理して家庭の味を出せばそれでいいのだと思います。調味料も目分量でいいじゃないですか。家庭料理はお金を取って出す料理ではありません。ある程度の美味しさの範囲に収まればいいのです。それで家族が楽しく食べられれば十分ではないでしょうか。
また、和食だからといって肩ひじ張らなくてもいいのです。スーパーにはおろしたものがあるので、魚が捌けることが家庭で和食をつくることの必須ではありません。肉じゃがも立派な和食であり、大根を煮て“おでんをつくる”でもいいのです。そうすると、良い出汁がないと美味しくならない、つまり旨味に気付くはず。それだけで十分です。
出汁は和食特有のものでしょうか。
フレンチにも魚や牛の骨を利用したものや、中華料理にも白湯がありますが、その多くは煮込んだ出汁です。これに対してカツオ、こぶ、しいたけの相乗効果で繊細な美味しさを引き出すのは和食独特のものでしょう。
そのフレンチでも昨今、カツオの出汁が注目されているようです。
無形文化遺産に登録された影響かもしれませんね。
しかし、その日本では将来、かつお節の「枯れ節」の旨味は理解されなくなっているかもしれません。特に和食から遠ざかりつつある若い人たちにとっては……。日本の食文化そのものなのに、寂しい限りです。
「味覚を育てるのは小さいころから」とよく言われます。
料理人を目指すのならたとえ出汁の旨さが分からなくても毎日、毎日の修行で次第に覚えるようになります。だから年齢はあまり関係ないでしょう。
ただ、家庭では事情が違うかもしれませんね。欧米を追いかけてきた長い道のりを経て現在があるわけです。たとえば、魚を余すところなく使う料理の一つにあら煮があります。しかし、家庭では魚離れもあってか、子どもたちが食べないからつくらないということになりかねません。早い段階でそれを知り、その味に慣らされていないと、その食文化も継承されなくなる恐れがあるのです。
家庭における食は、文化の継承にもつながるのですね。